人づくりちょっといい話23

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ページID1018523  更新日 2023年1月11日

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「意味ある人」になりにくい状況

「『意味ある人』って何ですか?」という質問をたくさんいただきます。素晴らしい研究をしているとか、多くの人を救ったとか、そういう風にお取りになっている方が多いのですが、平凡な人にも「意味ある人」「意味ある暮らし」をしている方がいらっしゃるんですよ。

実は、河井寛次郎さんという著名な陶芸家が「道を歩く人。歩いた跡が道になる人」という言葉を残しています。河井さんは日本の民芸運動を始められた方の一人ですが「他人が既につけた道を間違いないように歩いて行く人がいる。一方、自分の発想、理念、理想を実現したいがために、少しは貧乏をしても、女房子どもを泣かせても、歩いているうちに見事にその人の歩いた跡が道になる人。

「意味のある人」とは、道を歩く人。もう既に大道になっている道を上手に歩いて行く人ではなくて、歩いて行った跡が道になる人。そういう人を目指しています。ところが、今なかなか「意味ある人」になりにくい状況があるのです。

戦前まで、鹿児島県には若衆宿というものがあって、17、8歳の成年が先輩になって宿の長になり12、3歳までの男の子を集めて、読み書きそろばんを教えたり、ご飯の食べ方や礼儀作法、女性の口説き方まで教えたりして、いわゆる一人前の男に育てました。鹿児島県だけではなくて、名前が違うだけで日本の各地にもありました。その中で上下関係とか規律とか秩序というものを教え、生きる方法というものを教えたんですね。

しかし、戦後は上下関係、秩序、規律といったものがなくなってしまった。脳の発達の面でも暗記ばかりになってしまいました。さらに、家庭の中に生まれた三つの囲み一つは母親の過保護の囲み、二つ目は子どもの頃から個室に入れるという壁の囲み、三番目は進学塾のような囲み、の中で子どもが育つようになった。ということは、異質の人と交わる、人間関係を多様に結ぶという習慣がなくなったということですね。大人になって社会に出ても異質の情報への処し方を知らないんです。ですから、人間関係をなんとかして厚い社会にしなくてはいけない。幼児成熟、いわゆる子どもの形をした大人。こうした現象がたくさん出てしまった社会を早く直したいなと思います。

私事で恐縮ですが、社会党の代議士だった加藤シヅエさんから寒中見舞いを頂戴したんです。今、104歳です。その文章の明晰なこと。「今の日本は進歩と無気力が同居しています。だけど本当に無気力だろうか。人々がささやかなことに込められている感動的な話や振る舞いについて知らないからじゃないか。その感動を呼び起こすことによって、日本は進歩の芽を育てていくことができるんじゃないか」という内容です。その文面を思い出しながら、人づくり推進員会の報告会に身を置いて「静岡県は行けるぞ!」という感を強くしました

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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