人づくりちょっといい話13

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ページID1018533  更新日 2023年1月11日

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父は「ろうそく」、母は「すりこ木」

「草柳さん、二十世紀の次に来るのは二十一世紀ではなく、新世紀です」。

川田薫さんという水の大家が、こうおっしゃいました。「二十世紀に身に付けた価値観や振る舞い。そういうもので二十一世紀に入っていったら人類は破滅してしまう。ここで考え方を大きく切り替えて、地球と共生していくためには、自分の心や暮らしをどういうふうに改めるか。一国一国で、一県一県で考える。これから先、この地球上の生活を次の世代に伝えるためには、今の生活の中で何が間違っていたか何が正しかったか、それをしっかりと意識的に区分けして、その正しい区分けの中で生きていこうではないか。たとえ少しは生活が縮小されてもね」と。私は「全然異論はございません」と申し上げておきましたが。

年末になるといつも「すりこ木」と「ろうそく」の話を思い出します。

福井県の永平寺に行って参りました。大きな山門があって、そこへ修行をしようといういわゆる仏教系の大学を出た、あるいはインド哲学科を出たお坊さんが、初めて入門を請いに来ます。雪が深くて、しかも入門を受け付けるのが二月の最中です。雪がしんしんと降る中に二時間も三時間も立ったまま「お願いします」と待っているんですね。ようやく入門を許されると、山門を入ってすぐ右側に大きな「すりこ木」が下がっています。長さが八メートルもあって、当たり鉢に当たるところの周りが一メートルあるんですね。そこで聞かれるんです。「何のためにすりこ木が下がっていると思うか?お前の考えを言うてみ」と。分からないですよね。今までお坊ちゃんで暮らしてきて、大学まで親に出してもらったんだから。

「これが分からんのか。すりこ木というのは身をすり減らして人においしいものを届ける道具だ。禅というのはそういうことだ。自分の身を削って人のためになることだ」と教えるんです。

もう一つ、別のお寺に大きなろうそくがあって「何のためにろうそくがあるか」と聞かれます。「暗いところを照らすためでしょ?」と答えると、「馬鹿!ろうそくというのは、自分の身を溶かしながら世の中に光を投げかけるものだ」と言うんですね。

つまり、人間の存在というのは、ろうそくやすりこ木の役割を持っているというわけです。

お母さんは、何も「おいしい物を食べさせてやろう」という意識はなくても、やっぱり自分の子どもに「おいしい」と言われたらうれしいでしょう。お母さんの要素は、すりこ木なんですよね。

お父さんの一つの要素はろうそくなんですね、働いて働いて自分のためにぜいたくをするわけでもないし、安楽の思いをするわけでもない。子どもの大学入学の資金を出してやったりするんじゃないですか。そして時々、人間として大切な事柄を投げかける。それが光ですよね。これは深いな、と感心したんです。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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