人づくりちょっといい話15
「おばあちゃんのスープ」を選んだすてきな町
北海道の剣淵町が『絵本の郷』をつくったお話をしましたが、いよいよ地域活動が始まり、第一回の最高作として表彰されたのが『おばあちゃんのスープ』という童話です。
おばあちゃんが森の中の一軒家でスープを作っていた。ニンジンとジャガイモとキャベツのスープです。雪が降る夜中に「トントン」と戸をたたく者がいる。おばあちゃんが戸を開けるとウサギが「とってもおいしそうなスープの匂いがするんだけれど、ちょっと食べさせてください」と言うんです。「お入り。私の分を分けてあげるから」と言ってウサギに分けてあげると、また「トントン」とキツネが入ってきて、キツネとウサギに分けてやると、今度はクマが「わしにも食べさせて」と入ってきたんですね。ウサギは「駄目だよ。おばあちゃんと私とキツネの3人でスープを食べたら無くなっちゃうから」と言った。そしたらおばあちゃんが「いや、スープはいくらでもあるんだよ」と言ってクマの分もちゃんとお皿に入れてやる。今度はひっきりなしに「トントントントン」音がするんでクマが扉を開けてみると、森の中の獣が全部集まってきて「私にも飲ませてください」って言うんですね。おばあちゃんは「幸いね、お皿は取り出せば取り出す程あるもんだよ」と言って戸棚の中からどんどんお皿を取り出して「スープはくめばくむ程あるもんだよ」と言ってスープを分けてやったというお話です。
最後はクリスマスの晩、『おばあさんのスープのおいしいことったら。雪はすっかりやみました。クリスマスの鐘の音が白い森を渡っていきます』。この文章で終わりです。
このお皿、そしてスープを「愛」に置き換えてみると「『愛』は分ければ分ける程沸いてくる」という本質を、この童話はお母さんを通じて子どもたちに渡しているんですね。
この町の人たちが『おばあちゃんのスープ』を読んで1等にした。私は、その心のレベルの高さにビックリしているんです。さらに大切なことは、最高賞に入った10人の方には、幾ばくかのお金のほかに、旭川平野にできたカボチャ、ニンジン、ジャガイモ、ユリの根といった産物を『大地の会』という会がまとめて3年間送る計画になっていることです。こういったことが、私は本当の町おこしだと思うんです。今まで、町おこしというと町に来てくれる人口(交流人口)が多いことや、町にどれだけお金が落ちたかという経済の網を打って計ってしまうんですね。
私は町おこしというのはそこに住む人たちの心がいかに刺激されるか、いかに新しい自分をつくるかだと思うんです。この町は「愛を分かち合う」ことで成功したんですが、森信三先生はたった一人で「愛を分かち合う」ことをされていた。ましてや、家庭の中で親が子に「愛を分かち合う」のは当たり前ではないでしょうか。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より
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