人づくりちょっといい話60

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ページID1018551  更新日 2023年1月11日

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母と子の間には情報連鎖がある

お釈迦様が釈迦国の大使をなさっている時のこと、農耕祭に参加して1番前に座ってお祭りを見ておりました。農耕祭ですから地面を耕します。耕すと虫が出てくるわけなんです。「あそこにもここにも虫がいる」と言っていたら、空からスーッと小鳥が降りて来て虫をついばんで飛び去った。みんなでその小鳥の行方を見ていたら、後ろからタカが追いかけて来てその小鳥をパッと前足で捕らえて彼方に飛び去ったというんです。「何て残酷な、何て生というのは悲しいのだろう」とみんなが嘆き悲しんだ時、お釈迦様は「いやそうではないんだ。虫は小鳥に食べられる縁で生きてきた。小鳥はタカに食べられる縁で生きてきた。タカも何かに自分の身を捧げるだろう。そういう風にみんな縁でつながっているんですよ」と教えたという話があります。

これを、現代の科学では「食物連鎖」と味も素っ気もない言葉で言うのですが……。南極探検隊がタローとジローという南極犬を置いてきて、1年後に行ったら、タローとジローが大喜びで船まで走って来た。人々は「やっぱり生きていたんだ。偉いな」と感心したが、犬たちはアザラシを食べていた。アザラシは魚を食べていた。魚は海の小魚を食べていた。小魚は藻についているプランクトンを食べていたということなんですね。「食物連鎖」という言葉の中に、これを仏教語では「縁」というのですが、生命のつながりというものがあるということを心にとめておきたいですね。

私は、母親と子どもも、対立ではなく、つながりということで考えるべきではないかと思うんです。「育児は育自」と前に申しました。親が育っていないと子どもが育たない。子どもを育てると当時に、自分を母親として育てていくことが大切なのではないでしょうか。「夫婦になるのはやさしいが、父母たることは難しい」という山本有三の名言があります。夫婦になることはいってみれば男と女の問題です。しかし、父母になることというのは、1人の人間を1人前に育てていくのですから教育者になることであり、難しいことなんですね。

それだけに母子の「つながり」を大切にしたいんです。お母さんのおなかの中の1年間は、人間的な基礎づくりをしているわけですね。羊水の中でぷかぷか浮いている間じゅうお母さんの心臓の鼓動やお母さんの声を聞いているんですね。子どもが泣くとお母さんが「どうしたの?」と近付いてくる。その声だけで子どもの泣き声がフッと変わる。その母の声が音階でいうとラの音であり、体内で聞いていた音に近いということが分かっています。そういうふうに、母という個体と子どもという個体の間には重大な情報連鎖があるんですね。情報の大変な構築物が二人の間にはあるんだということです。これを大切にしない手はありませんね。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(平成13年発行)より

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