人づくりちょっといい話34

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ページID1018560  更新日 2023年1月11日

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「之を養う」のが教育です

今から四年前に、「『静岡県の人づくり百年計画』に参加してください」と石川知事から言われ、今までずっとやってきました。いくつかの提案提議を生かしていただいたのですが、その中に「『養之大学』というものをつくろう」という提案がありました。本当はもう少し勉強をしたかったんだけれども、家の都合で心ならずも高卒で社会に出ざるをえなかった人たち。そういった人たちが、社会人として夜間でも通信教育でも、大学教育を受けられる大学です。

その「養之大学」という名前は、どこから付けたか。静岡県長泉町に井上靖(いのうえやすし)さんの文学館がありますが、井上さんがお住まいになっていた家に扁額が掛かっておりまして、そこに「之を養うに春のごとし」と書いてあるんです。「之」とは、「心」ですよね。「心を養う」。つまり、「『もっと勉強したい』というときに、それを教える人が、春がものを育てていくように、ぽかぽかのんびりと育てていってはどうか。これが本当の教育だ」ということなんですね。

「志」という字がありますね。「士」の下に「心」と書きます。この「士」という字は、昔は「之」だったそうです。二時間立ちっぱなしで講演されるという白川静先生が、『字通』という漢籍の辞典を出されていますが、この『字通』の中にそのことが出てくるんですよ。「心」が、「自分はこれがしたい」「これになりなさい」といって赴く先のことを「之」というのだそうです。

考えてみると、うまく授業をしている先生というのは、やはり教員になりたくて、子どもがかわいくて、子どもを育ててみたいという先生なんです。そういう「心」があって、「之」という先生になるんですよね。

こうした「之」は、子どもにもあるのではないですか。実は子どもも、本当はなんとなく「空を飛びたいな」とか「コックさんになりたいな」という気持ちがあると思うんですよ。ただ、子どもだから少し恥ずかしくてそれが言えなかったり、あるいは体系的にそれを言葉に置き換えることができなかったり、自分の意思をいろいろな面で試してみて発言をするということができない。そういう子どもの持っている「之」というものに気が付いて、「之」に対して呼びかけてやる。

つまり、教師は、「自分が教師になりたいんだ。」という心があったから、教師という目標に向かって先生になったわけですよね。それと同様に、子どもというものも「之」を持っているはずだから、子どもの心を「之」に向けてやる。「之」をはっきりさせてやる。そのためには何をしたらいいかということを教えてやる。こういうことなんだろうと思うんですね。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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