人づくりちょっといい話54

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ページID1018573  更新日 2023年1月11日

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お母さんと赤ちゃんの目の距離

アマラとカマラの話をご存じでしょうか。狼に育てられたインドの姉妹ですね。アマラが七歳、カマラが二歳です。狼に育てられた結果、彼女たちは肩や胸に長い毛が生えて、四足で走って、話し声は「ウォーウォー」しか出せなかった。発見されて人間の社会に連れ戻して適応させようとしたのですが、とうとう適応できないまま亡くなってしまう実話です。

このように、人間は、環境に見事に適応してしまう能力を持っているわけです。人間から見れば「アマラとカマラは何と悲惨な運命だろう」と思ってしまうでしょうが、彼女たちの立場に立ってみれば、見事に適応して、狼の仲間の中で暮していたということですね。人間には社会に適応するだけでなく、自然に適応するという素晴らしい能力があります。その力が環境にちゃんと折り合いをつけていることを得てして忘れて、無理矢理に自分に努力を強いたり、「環境が悪いから、自分は何も才能が発揮できない」と決め付けたりするんです。

実際は人間の体は良くできているらしく、ある実験によれば、例えば、人間がベートーベンの音楽で心安さを感じるのは、周波の上と下を切った狭い幅の中だそうです。音階で言うと、高音部記号の五線の下のラから上のラの範囲。赤ちゃんは、中央のラで泣くそうです。すると、お母さんが「よしよし」とか「どうしたの?」とやって来ますね。お母さんはさっき言った一番人間として快い感じの音程で赤ちゃんに語りかけてるんだそうです。「あらあら、どうしたの?」と、赤ちゃんにとって一番快い音程で語りかけられると、赤ちゃんの体温がスーッと下がるそうです。

母親と赤ちゃんは、初めから命同士が相呼応するようにできているのでしょうか。おっぱいを飲ませる時に赤ちゃんを抱きますね。そして赤ちゃんが飲んでいると、ふっと乳首から口を離してお母さんの顔を見る。その時の目とお母さんの目の間の距離が大体、二十五センチから二十八センチ。お母さんの目というのは赤ちゃんにとって最初の情報なんですね。これが最も快い情報なんだそうです。ああやって、おっぱいを飲ませるのに抱いて乳を含ませる。赤ちゃんが泣いたら「あらあら、どうしたの?」と言って駆け寄る。実験や理論を全く知らなくても、自然に最適条件で母と子がお互いに命のやり取りをしているんですね。

今、静岡で人材開発の仕事をしております。何も難しいことではないんです。赤ちゃんとお母さんの目の距離です。それから、一番人間が快い音のラです。ラのところで赤ちゃんは泣くということです。お母さんが「あらあら」と駆け寄ると赤ちゃんの体温が下がるということですね。これ、命の話です。信じていこうではないですか。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(平成13年発行)より

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