今回は、同大学院大学を設置することとなった経緯とその役割についてお話します。
医療や介護のお世話にならずに日常的に自立した生活ができる期間を「健康寿命」と言いますが、本県の健康寿命は全国トップクラスにある一方で、健康寿命と平均寿命には未だ約10年の開きが生じています。この期間は介護など何らかのお世話が必要であると考えられますが、この差をできるだけ短くしていくことが重要であり、本県の保健医療行政の目標とも言えます。
本県は、これまで「ふじ33(さんさん)プログラム」(運動・食生活・社会参加の3分野での生活習慣改善の取組)など他県に先駆けて、様々な健康増進施策や疾病予防対策を行ってきました。しかし、健康長寿を支える要因についての科学的な分析は十分とは言えません。今後は、科学的な視点に基づいて健康に関する課題を整理・体系化し、施策を効果的に実施していくことが求められています。
そこで、本県は健康寿命の延伸のため、「社会健康医学」という分野に着目して、平成28年度から委員会を開催し、ノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学高等研究院の本庶佑特別教授に座長を務めていただきました。そして、平成30年3月に「社会健康医学研究推進基本計画」をまとめていただきました。
この基本計画では、「研究の推進」、「人材の育成」、「成果の還元」と、これらを具現化する拠点となる仕組みの構築が盛り込まれ、これを受けて研究と人材育成の拠点として、静岡社会健康医学大学院大学を設置することとしました。
大学院大学の役割は大きく二つあります。
一つは県の社会健康医学の研究拠点となることです。大学院大学では、健康寿命の延伸や予防医療の課題解決に取り組み、健康施策に活用できる科学的知見(エビデンス)を創出します。
研究分野は公衆衛生学をベースに、医療ビッグデータ、ゲノムコホートという先進的な分野を加えたものとなっています。
医療ビッグデータは、国民健康保険、後期高齢者医療保険等における約220万件の県内の健診データを活用します。また、ゲノムコホートは、静岡県内で地域住民対象のコホート(集団を長期間追跡する研究)を立ち上げ、多彩な臨床情報を集めることで認知症やフレイルなどの原因を研究します。
こうした先進的な分野における新たな手法により研究を進めていきます。
大学院大学のもう一つの役割は、医療や保健、福祉の現場で健康寿命の延伸を担う人材を育成することです。今後、静岡県内における社会健康医学の取組を発展、定着させるため、将来、静岡県の地域医療現場のリーダーとなる人材を体系的に育成します。
具体的には、疫学や医療統計学、行動医科学・ヘルスコミュニケーション学などの専門的な手法・知識などを修得し、現場でのデータ分析や健康指導のできる人材や治療に役立てることができる人材です。
大学院大学は、既に働いている方が現場で抱える課題を解決するために入学し、解決策を学んで再び現場に戻ることを想定していますので、講義は金曜、土曜を中心としており、オンラインでも受講が可能となっています。また、教員がマンツーマンで指導できる体制を整えていますので、学生にとってはより濃密な学修や研究が期待できます。
大学院大学において、研究推進と人材育成を両輪で展開することにより、社会健康医学の研究成果を具体的な健康施策として、県民の皆様へ還元していきたいと考えています。
大学院大学については、去る10月23日、文部科学省から正式に認可されました。本庶佑特別教授をはじめ、これまで設置に向けて御尽力をいただいた多くの方々に心から感謝いたします。現在、2021年4月の開学に向けて学生を募集しています。興味のある方は、ホームページを御覧いただき、ぜひ応募してください。
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