第10回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ(作者自身による作品紹介)

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ページID1044401  更新日 2023年1月11日

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最優秀賞

『ぼくらの自由』(小説)

主人公コトキは沼津駅で、出会い系で知り合ったアイコという女の子を待っていた。コトキは、そのコに夢中になりホテルに行くが、最後に「やめて」と言われその日は帰る。デイトレーダーであるコトキは、ある日株で200万儲けて、アイコに124万のネックレスを買う。アイコの住む伊豆の伊東市で、ネックレスを渡すが断られる。虚しくなったコトキは、そのネックレスを海に捨ててしまう。その事がアイコの気持ちを掴み二人は暫く同棲する。しかし、アイコに、「仕事もしてないくせに」と言われて二人は別れてしまう。自宅に帰り、無職ということに自分の存在を見失い、落ち込むコトキ。一ヵ月後、伊東から電話があり、アイコが自殺を図って病院に運ばれたという。急いで伊東に向かうコトキ。しかし、その日は豪雨で、車の視界が取れなくなり、コトキは車ごと畑に落ちてしまう。アイコは生きていた。病院から退院したコトキは、まだ入院しているアイコと再会する。

優秀賞

『瀧をやぶる』(小説)

私は伊東に住む、制服コスプレの好きな女子中学生。ある時、トイレを借りたことから同級生弥太郎の両親が失踪して、弥太郎がひとりで家に住んでいることを知ってしまう。母親が家に連れて来なさい。と言うので弥太郎と私の家族との同居生活が始まる。お金のない弥太郎のために、私は弥太郎と一緒にリサイクルショップに弥太郎の家のものをどんどん売っていく。カラッポになっていく弥太郎の家。私と弥太郎は、売ったお金で萬城の瀧に遠出する。

『ほら貝の音』(小説)

素潜りで魚介類を漁っていた少年達が、海から上がって、帰り支度をした時だった。

潮の流れに乗せられた流木、塵埃と共に、水死体が流れ着いて、少年たちは戦いた。

殊に征一は、行方不明になっている母への思いが重なって、身震いを生じた。飛び込み自殺で名高い、錦ヶ浦が過ぎったからである。

行商に出掛けたまま、十日も経っているのに、祖父母は手掛かりを掴もうとするどころか、征一の苛立ちを増幅させていた。
級友でもある、博識の中島君に相談したが、警察に相談をすることが一番と言われた。

そのことを祖父母に促しても、一向に腰を上げないでいた。後から分かったことであるが、母は窃盗の容疑で留置されていたためである。

嫌疑は晴れたものの、漁場での生活に疑問を抱いていた母は、征一に生活の変革を同意させた。水兵として戦った、今は亡き夫の生家を、母と子は離れることとなった。

佳作

『伊豆の俳人 萩原麦草』(随筆)

私は伊豆長岡町に生まれ、函南町で育ちました。私が同じ伊豆長岡町に生まれた俳人、萩原麦草の名を知ったのは伊豆長岡町史の編纂に携わった十年程前のことでした。句集や主宰誌『壁』を読み進むうちに麦草の人生と人柄にぐいぐいと魅せられてゆく自分がいて、麦草が亡くなった年に私は高校生、生前に出会う可能性もあったのにと悔やまれました。

寝釈迦山(葛城山)の麓で農業に携わり、俳句を作り続けた麦草の一番の魅力は、働く者や虐げられた弱き者に向ける温かな視点だと私は思います。彼自身も、艱難辛苦な人生を粘り強く生き抜いてきました。俳句を心の糧として。その俳句が彼の人生を救いあげてくれ、彼の周りに人垣を作りました。心通う俳友たちとの交わりの中で生きた麦草は、幸せな人だったなあとしみじみ思います。五十代後半にさしかかった今、私は心豊かに生きる術を麦草の足跡を辿ることによって教えられたような気がします。

『輝く木』(小説)

小学六年生のくるみは、伊豆長岡町柔道大会で同級生の大輔を破り優勝したけれど、少しも嬉しくなかった。声を掛けてきた大輔に、明彦のために強くなったんだろう。と言われ、くるみは幼なじみで従弟のように気にかけてきた明彦を思い出す。

明彦は春の源氏山写生大会で、白い絵具だけを使って画用紙いっぱいに白い木を描きクラスの仲間に笑われるが、おれの木は紙の中に入らないと言った。

大輔たちの悪戯から、戸沢川に落ちた子猫を助けようとした明彦は風邪をこじらせ、やがて亡くなってしまう。明彦の描いた絵を見たおばさんの、こらえていた深い悲しみに触れたくるみは、柔道で大輔を絶対負かしてやると一年前自分に誓ったのだった。

冬の朝、校庭の桜が白く氷に覆われた。くるみは、それを見て明彦が夢を叶えたと思った。その日、東京へ発つ大輔を無理やりハイヤーから降ろし、二人は白い木の前に立った。

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