第18回伊豆文学賞 入賞作品あらすじ(作者自身による作品紹介)

ツイッターでツイート
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページID1044374  更新日 2023年1月11日

印刷大きな文字で印刷

(1)小説・随筆・紀行文部門

最優秀賞 「まつりのあと」 (小説)

「わたし」は40歳を過ぎた独身女性。定職もない。一人娘で、両親とは別居しているが、時折、父親の受診に付き添い、大学病院を訪れる。父親の死が近づいては遠のく、不安と安堵に揺れながら、どこかで父親に縛られている自分の人生に割り切れない思いを抱いている。

そんなある日、大学病院で会計を待っていると、かつての親友「直美」の名前を耳にする。「わたし」の意識は、その友と別れた中学3年生の浜松まつりの夜へと巻戻っていく。提灯の灯、御殿屋台のお囃子の音、若衆の練のかけ声、ラッパの音……。熱と闇、自由と孤独が混在する渦の中へ。

昭和が終わろうとする時代。たしかに、ふたりは一緒だった。なにが、ふたりを遠く隔て、「わたし」は友を失ったのだろうか。

ふたりの少女の人生がすれ違っていったあの夜から、いまもまだ、「まつりのあと」は続いている。

優秀賞 「銀鱗の背に乗って」 (小説)

奥駿河湾の小さな漁港で、老いと格闘する漁師の心の内を描く。水泳が日課の72歳の漁師与吉は、泳ぎの途中体調に異常をきたし一時記憶を失う。心身共に頑健を誇る与吉は狼狽える。その1か月後、与吉は漁に出て行方不明に。原因はやはり意識の欠落。ようやく帰港した与吉は自分の異常を悟られまいと船の故障を言い訳にするが、家族や周辺は不安に包まれる。しかしその後、漁を休み復調したはずの与吉を再び異変が襲う。漁の帰路にまた記憶を失い、泳ぎの途中では孫を置き去りにする醜態を曝け出す。もはや異常を隠し通せなくなった与吉は、それでも自分を取り繕うと漁に出る。しかし心身の異常は容赦せず、再び意識の喪失に襲われ心は打ち砕かれる。壊れていく自分の行く末に希望を失った与吉は死をも思うが、亡き妻や父母の幻影が呼びかける「そんなに頑張らなくても」という言葉に心動かされ、なるようにしかならないのなら、あるがままに生きようと思う。

佳作1 「あぜ道」 (小説)

東京都下の団地に一人住いの京子は、四国への転居を決める。弟の信幸には反対されるが、古稀を過ぎた京子の決心は固い。

転居の前に夢にまで見ている伊豆の宇佐美に行っておきたかった。10歳の頃の京子が過ごした養護学園がどうなっているのか、知りたかったのだ。学園跡地をたどるうちに、あぜ道を歩いた記憶や学園でのひとこまひとこまが思いおこされてくる。殊に京子にとって宝物のキャラメルはあぜ道と綾の様に絡み合う。

同時に信幸と共有するあぜ道は苦い思い出として浮いてくる。信幸にとっては触れられたくない道だった。

何十年を経ても、学園の先生方の言動が京子の心の奥深くにまで影響していたのだと、今更のように知る。

京子は、四国の特養で暮す姑の側に行く事に少しのためらいもなかった。先々、姑がしていたように、遍路に出るつもりの京子は、遍路道でもあぜ道を探そうとしていた。

佳作2 「赤富士の浜」 (小説)

伊豆・戸田港の船大工虎吉は、大地震と大津波に遭遇、子と家をなくすが、同じ地震と津波で下田にいたロシア使節プチャーチンも乗船デイアナ号が大破され帰国できなくなる。この瞬間から戸田港と虎吉の運命が変わり始める。折から祖国が英仏と戦争中のため、プチャーチンは修理を外洋に面した下田でなく戸田で行うことで幕府了解を取り、船を移動させるが、船は宮島沖で沈み、プチャーチンらは村人や虎吉らに救出される。このため、戸田で洋船を新造することが決まり、虎吉はその棟梁補佐に任命される。様々な苦労の末、わずか3カ月で洋船「戸田号」は完成、プチャーチンはそれで帰国する。戸田はしばらく日本の洋船建造のメッカとなるが、造船業が江戸や浦賀などに移ると、元の港に戻ってゆく。虎吉は栄達し、長崎やオランダに留学の後、明治の海軍造船のトップに登りつめるが、定年前の一夕、戸田の浜辺で赤富士を見上げて、ふと往時と人々の恩を思い出す。

(2)メッセージ部門

最優秀賞 「『赤電』に乗って」

父の墓参りの折の会話をきっかけに、50年前のワンシーンがよみがえった。

単身赴任の父を訪ねるため、浜松に出て赤電に乗り換えることは、10代の私にとって大冒険だった。心細さと浮き立つ思いがない交ぜだったあの頃の自分に会いたくなって、今秋赤電の切符を手にした。同時に赤電の歴史を調べてみようと、遠州鉄道の窓口や駅員への取材旅行となった。

優秀賞1 「四十一年目の富士山」

沖縄出身の姉妹(姉は私の妻)と富士山に登る。

「やっぱり富士山は富士山だわ!」と感嘆する義妹に、戦後長い占領下に置かれた沖縄の人の祖国への屈折した思いを感じた私。

見る人によって富士は俗にも高貴にもなる、見え方の違う不思議な山だとあらためて思う。

優秀賞2 「Mさんの鮎」

清流の川底につく珪藻類を食べて育つ鮎は、魚の中でも爽やかな香りを持っている。鮎の大好きな私が、道の駅「天城越え」で(アユの塩焼き)を屋台で売っているMさんと出会い、その味、串の打ち方、炭火の火加減に惚れ込み、食べたくなるとすぐに車を走らす。狩野川の澄んだ水の流れも私の心を捉えて放さない。

優秀賞3 「朝の野菜直売所」

家の近くの「まんさい館」には、たくさんの野菜が出荷されます。美味しいと噂になったトマトは、多くの人々が手に入れたいと列を作ります。私もその中の一人で早起きして列に加わっていました。ある時、みんなが競って手に入れようとするトマトの他にも味わい深いトマトがあることを発見し、嬉しくなりました。また、この場所で出会う農家の人には、新鮮な野菜を食べた時と同じ位、活力を感じ、なぜか楽しくなります。

優秀賞4 「雨の中の如来」

浜松市北区細江町に宝林寺という名刹がある。中国風な仏殿が国の重要文化財に指定されているが、その境内に五つの如来の石像が置かれている。その如来の表情が実に悲しみを帯びている。屋根も囲いもない場所に置かれた如来は、雨の日は雨にうたれ、霜の降る朝は霜にうたれている。如来は、人間の持つ業のような悲しみにじっと耐えているかのようだ。私は雨の中の五つの如来に向って手を合わせた。

優秀賞5 「緑のプリン」

伊豆半島に行こうと決め、旅行ガイドブックを眺めて、「大室山」に初めて出会いました。第一印象は、正に「緑のプリン」でした。また、富士山と姉妹であり、姉の「磐長姫の命」を祭神としていることも初めて知りました。登って、妹の富士山を遠くに望みながら山頂を一周しつつ、姉の機嫌を損ねてはいけないと、妻も私も口を堅く閉じていました。伊豆文学賞メッセージ部門の案内を入手し、この感動を今回私なりの文章にして投稿しました。

特別奨励賞 「あやめ祭の発見」

源氏あやめ祭は伊豆長岡古奈に生まれたあやめ御前とその夫源頼政の供養祭です。3日間にわたり伊豆長岡町が大いに盛り上がります。その中でも私が注目したのが、地元の中学生の有志によるソーラン節でした。若さ故の力強い動きと純粋さを自分なりの比喩の仕方で表現できました。

この作品を機会に静岡県を問わず、全国の皆様が源氏あやめ祭に参加していただければと思っています。

このページに関するお問い合わせ

スポーツ・文化観光部文化局文化政策課
〒420-8601 静岡市葵区追手町9-6
電話番号:054-221-2252
ファクス番号:054-221-2827
arts@pref.shizuoka.lg.jp