第17回伊豆文学賞 入賞作品あらすじ(作者自身による作品紹介)

ツイッターでツイート
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページID1044378  更新日 2023年1月11日

印刷大きな文字で印刷

(1)小説・随筆・紀行文部門

最優秀賞 「前を歩く人 坦庵公との一日」(小説)

メリケン国から帰国した中浜万次郎は様々な曲折を経て伊豆の韮山代官、江川太郎左衛門英龍(坦庵)の手付となる。開国を迫るメリケンに対し右往左往する幕府だが、旧弊に凝り固まり担庵の外交力も万次郎の英語力も活用することができない。江戸の代官屋敷で万次郎は神道無念流の達人にして手代の斉藤弥九郎から、坦庵が改革しようとしてきたことに対し組織の既得権益者達が如何に陰湿な妨害をし続けてきたか聞かされる。日米和親条約が結ばれた翌年の早春、坦庵は密かに韮山に帰り、様々な懸案を処理するため終日万次郎を供とし近在を動き廻る。下田から韮山へ急きょ移転となった反射炉建設現場では、坦庵は敷地内の設計に立ち会うなど、自らの疲れを厭おうともしない。万次郎は坦庵の心奥の焦りを感じ不安を覚える。夕刻坦庵は他の供を返し、万次郎と二人で大仁村の名主屋敷に向かう。その座敷牢で会ったのは吉田寅次郎という江戸へ護送中の元萩藩士だった。

優秀賞 「野づらは星あかり」(小説)

十歳の史子は父母兄弟の五人家族である。戦争も末期が近く市民は空襲を恐れながら日々を過ごしている。そんな折、東京からの集団疎開生、和子達が長野県に再疎開して行く。静岡を見捨てて逃げるように発って行く和子に対する史子の複雑な思い。やがて現実となった静岡大空襲と安倍奥への疎開。疎開先で友達になった洋子と母親の切実な生活。早く一家の主になりたいと言う洋子の大人びた孤独な思いを知り衝撃を受ける。お裾分けした鰻の蒲焼がきっかけで洋子が安倍川に鰻獲りに行き遭難する。捜索隊の松明の火塊が移動して行った茫漠とした暗闇の淵上に流星が堕ち、流星は洋子の死を暗示するように、人型となって天空に昇降して行く。つむじ風のように、生きることに夢中な史子は、大人が考えているよりずっと忙しいのだ。子供には子供の世界があり、それは決して大人になる経過点ではなく、大人と違う価値観を持つ社会的存在なのだ。戦禍者への鎮魂歌である。

佳作1 「宝永写真館」(小説)

朱美(あけみ)の実家は三島で写真館を営んでいた。ある日、高齢の父が家を出ている三人の娘を呼び寄せて、長年営んできた写真館を閉めると切り出す。父は、「閉店するにあたり、心残りがある。それは撮影したのに渡せなかった写真だ」そう言って娘たちの前に卒業写真、お見合い写真、家族写真を並べ、これらの写真を届けてほしいと頼んだ。

朱実は体力的に弱ってきている父を気遣い、父の願いを叶えるべく、二人の姉や母と写真の届け先である熱海、修善寺、下田へと足を運ぶ。

渡せなかった写真にはそれぞれ引き取れない事情があった。写真を届ける家族と、写真を受け取る家族を通して、家族の思いや、女の生き方、愛の形に触れていく朱実。写真を届け終わり、父の心残りがなくなった時、これまで父任せの人生を送り、黙って父の仕事を手伝うだけで表舞台に出たことのなかった母が初めて自分の決意を話す。

佳作2 「興国寺城遺聞 康景出奔」(小説)

当作品は関ヶ原合戦の後、今の静岡県沼津市に誕生した(しかし僅か六年で改易となった)興国寺藩の主、天野康景を描いた小説です。江戸時代のベストセラー『東海道名所図会』には、「康景が非道露顕によって(藩は)改易せらる」とあります。どうやら余程の暗君だったようで、しかし一方、康景の「非道」によって破却に追い込まれたはずの興国寺城址には、今も彼を讃える立派な顕彰碑が建っています。実は康影、家中の某足軽(彼は康景への忠節の余り、ある法度を犯してしまった)を救おうとして自らその罪を肩代わりし、その罰として城と領地の一切を御上に返上したのでした。後世、新井白石は康景のことを「此の世には有りがたき賢人」と記しています。しかし時はいつしかその行為を「非道」に、康景という「賢人」を愚人へと変えてしまったのでした……。今回、この作品を書いたことで少しでも康景の真実に光が当てられたとしたら、本当に嬉しく思います。

(1)メッセージ部門

最優秀賞 「三島夏まつり」

三島夏祭りは、町中がしゃぎりで盛り上がります。はじめのあたりは、夏祭りの内容について説明してあり、そのあとは、私の体験談や、感じたことをまとめてあります。5月の連休を過ぎると、三島の町のあちこちで「チャンチャンチャン・・・」という鉦の音が響き始めます。

この書き出しで始まる「三島夏祭り」。是非読んでいただけたら幸いです。

優秀賞1 「情けが溶ける最強湧水都市・三島」

三島の魅力は、「富士山=伊豆」の縦軸と「三嶋大社=広小路」の横軸が時空を超えて織り成す都市構造と、清らかな湧水に溶けた三島人の「情け」にある。それは「女郎衆のお化粧が長い」ことを許す大らかさであり、「情け」が溶けた富士の湧水が潤す日常でもある。夏まつりの中日にお神輿が三嶋大社の門前を出発し、広小路へお遊びになられるのも、「情け」であり、都市の遊び心である。三島は実に大人のまちである。

優秀賞2 「遠州大念仏の夜」

遠州大念仏というのは今からおよそ450年前に三方ヶ原の合戦で命を落とした兵の霊を慰めるために始められたと言われている。その大念仏を子供の頃、私は母に手を引かれてよく見に行った。その母がその頃から40年ほど経った頃亡くなり、私のうちでも遠州大念仏の舞いや歌が行なわれることになった。大念仏を眺めている私の耳に、懐かしい母の声が確かに聞こえたのだった……。

優秀賞3 「父の日の金目鯛」

息子が初めて招待してくれた温泉旅行。それはてっきり『父の日』の贈り物と思っていたのに、私は付録だった。伊豆稲取港近くの寿司屋。

「オカア、長い間のロッキー(老衰で逝った我が家の愛犬で、息子の相棒だった)の介護、ありがとう」と、金目鯛のフルコースを前に、女房に感謝する息子。

けれど、むしろ私にはその方が嬉しかった。元々『父の日』などどうでもいいのだ。

優秀賞4 「伊豆行き松川湖下車の旅」

景色よし、魚よし、温泉よしの三拍子揃った別天地「伊豆」。夫と伊豆に行くときに必ず立ち寄る奥野ダム、松川湖。その周遊遊歩道を夫婦でゆっくり歩く。何度訪れても、四季折々の自然がやさしくあたたかく迎えてくれる。慌しい日常から逃れて、二人で歩くことは、夫婦の関係を問い直すことでもある。夫のストレスや不調に寄り添い、辛いときを乗り越える旅の途中下車地。松川湖を歩くことは、伊豆に行くことと同じである。

優秀賞5 「伊豆は第三の故郷」

私は旅行が好きで各地に行っていますが、その経験の中で伊豆に特別な懐かしさを感じてきました。その理由を考えると、台湾人としての自分のアイデンティティーを明らかにする事が出来るかもしれない。そんな期待を持って今回の応募に臨みました。そして、作文しながら、期待を現実のものにするための糸口を見付けたような気がしています。その貴重なチャンスを与えて下さったこのコンテストに深く感謝します。

このページに関するお問い合わせ

スポーツ・文化観光部文化局文化政策課
〒420-8601 静岡市葵区追手町9-6
電話番号:054-221-2252
ファクス番号:054-221-2827
arts@pref.shizuoka.lg.jp