懸念2 生物多様性への影響
県が心配していること
南アルプスには、世界の南限とされる希少動植物が多数存在し、守るべき極めて希少な生態系があります。この生態系は、奥地で人為が及ばず、周辺環境の変化の影響を受けやすく非常に脆弱です。
また、ユネスコエコパークに認定されている自然環境自体が、後世に残すべき貴重な資産であり、これを守ることは国策とも言えます。
静岡県は、リニア中央新幹線のトンネル掘削工事により、河川や沢の流量や水質に変化があった場合に、南アルプスの生物多様性や自然環境に壊滅的なダメージを与えないか、心配しています。
JR東海には、工事を実施する前に、トンネル工事の影響を予測し、できる限り回避・低減する方法を考えるよう求めています。
JR東海との対話の状況
今後の主な対話項目
令和6年2月5日に整理した主な対話項目3区分28項目のうち、生物多様性関連は17項目
県生物多様性部会専門部会において対話を進めています。
1 沢の水生生物等への影響
(1) 適切に順応的管理を行うための事前の生物への影響の予測・評価(保全措置、管理基準等)
(2) 沢の上流域の水生生物等の生息状況の調査や、その結果を踏まえた重要種の確定と指標種の選定
(3) 必要な調査(季節毎の生物の生息・生育状況の把握など)の工事着手前の実施
(4) 「流量減少の傾向がみられる沢」の重点的なモニタリング
2 沢の流量変化
(1) ボーリング調査の実測データを用いた再解析(上流域モデル見直しを含む)
⇒ 対話完了
(2) 上流域モデル(GETFLOWS)により解析できない沢の源流部などの流量変化の予測
(3) 「重要でない断層」と「主要な断層」の区分の科学的根拠
⇒ 対話完了
(4) 地下水(トンネル湧水)の水量・水質・湧水量や地下水位の観測
(5) モニタリング(トンネル湧水・沢の流量)の具体的な手法(沢の物理的環境に応じた生息・生育地のセグメント設定等)
(6) 突発的な事態への対策(リスク管理)
3 回避・低減措置及び代償措置
(1) 薬液注入による自然環境への影響の把握方法、具体的なリスク管理
(2) 椹島より上流(本流河川)の流量減少に対する具体的な保全措置、モニタリング計画
(3) 生物への影響を予測し、「損なわれる環境の『量』と『質』を評価」した上での、「それに見合う新たな環境の創出」等の環境保全措置
4 高標高部の湧水と地下水のつながり
(1) 千枚小屋付近の1年中枯れない湧水箇所周辺及びそれと同様な状況を示す湧水箇所周辺における湧水や植物への水分の供給経路に関する断層、破砕帯や地形、地質との関連性
5 大井川本流の水質・水温の変化による底生生物等への影響
(1) 水の濁りについて、底生動物の無被害濁度を超えない、安全な管理基準値の設定
(2) 水温について、生物への影響が懸念されない、安全な管理基準値の設定
(3) 底生生物等への影響の回避・低減措置と、その有効性の検証及び、仮に対応が不十分な場合の追加措置
静岡県中央新幹線環境保全連絡会議 生物多様性部会専門部会
県は、南アルプスにおけるリニア中央新幹線トンネル工事が南アルプスの自然環境や生態系に及ぼす影響を科学的根拠に基づき明らかにするため、関連する動植物や生態リスク評価などの専門家を委員とした「生物多様性部会専門部会」を設置し、JR東海と対話を行っています。
リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議(環境保全有識者会議)
生物多様性や自然環境の保全については、国土交通省が設置した「環境保全有識者会議」において議論が進められました。
環境保全有識者会議では、リニア中央新幹線のトンネル掘削工事により、河川や沢の流量や水質に変化があった場合に、沢やその周辺の生物、高標高部のお花畑などにどのような影響があって、その影響をどのように小さくするかについて議論されました。
県では、県の生物多様性部会専門部会の委員から意見を伺い、会議の中で議論してほしいことや疑問点などについては、意見を出してきました。
12月7日に、環境保全に関してのこれまでの議論の内容がとりまとめられた「リニア中央新幹線静岡工区に関する報告書(令和5年報告)~環境保全に関する検討~」が公表されました。
報告書では、トンネル掘削による生態系への影響を最小化するため、順応的管理で対応することなどが示されました。
しかし、県としては、順応的管理を行っていくために必要な工事実施前の調査・予測が十分に実施されていないなど、今後も議論が必要な課題が残されていると考えています。
今後、国の報告書を踏まえ、環境影響評価が適切に実施されるよう、生態系への影響の予測・評価、モニタリング、リスク管理など、具体的な実施方法についてJR東海との対話を進めてまいります。
国報告書の主なポイント
(1) 沢の水生生物等への影響と対策
- 大井川上流部の沢の流量変化が予測された。
- 「順応的管理」により環境への影響を最小化する方向性が示された。
(2) 高標高部の植生への影響と対策
- 高標高部の植物群落は、深部地下水の水位が変化したとしても、影響が及ぶ可能性は低いと予想された。
(3) 地上部分の改変箇所における環境への影響と対策
- トンネル湧水を河川に放流した時の水の濁り、水温が予測された。
【まとめと今後に向けた提言】
- JR東海の進め方は適切であると判断できる。
- 国は、科学的・客観的な観点から、対策が着実に実行されているか等について、継続的に確認することを検討するべき。
- JR東海は、環境保全措置、モニタリング等の対策に全力で取り組むと共に、地域の関係者との双方向のコミュニケーションを十分に図ることが重要である。
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国土交通省ホームページ(外部リンク)
国の報告書は、ページ最下部をご覧ください。 - 国の有識者会議・モニタリング会議
- 主な出来事(県生物多様性部会専門部会)
生物多様性とは
生物多様性とは、多くの種類の生物が存在し、それがさまざまな形でつながり合っていることをいいます。
私たち”ヒト”もその生物の一つであり、ほかの生物とつながりながら生きています。
私たちの生活は、この生物多様性からもたらされるさまざまな恵みによって支えられています。
ユネスコエコパークに登録された南アルプスは、高山植物やライチョウなど氷河期由来の希少な動植物が生育・生息する世界の南限であり、豊かな自然環境を育んでまいりました。
私たちは、この南アルプスの豊かな自然環境が育む生物多様性を守り、後世へ確実に引き継いでいかなければなりません。
関連情報
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