1 県政の概要
令和7年9月県議会定例会知事提案説明要旨
【1 県政の概要】
ただいま提出いたしました議案の概要を御説明申し上げますとともに、当面する県政の課題について所信並びに諸般の報告を申し述べます。
はじめに、今月5日の台風15号による竜巻や大雨により、県内におきましても尊い人命が失われ、中・西部地域を中心に家屋の損壊や浸水が発生し、ビニールハウス等の農業施設、道路、河川等の公共土木施設などにも多くの被害をもたらしました。お亡くなりになられた方の御冥福を心からお祈り申し上げます。また被災された皆様に対しまして衷心よりお見舞いを申し上げます。
私自身、竜巻が発生した牧之原市や吉田町の被災現場へ赴き、住家等に甚大な被害が発生していることを確認いたしました。県としましては、避難の長期化に備え、被災者の健康に配慮し、災害関連死の防止を図るとともに、一日も早い復旧と生活・生業安定に向けて、被災された住宅の再建、補修等への速やかな支援や、事業者の皆様の事業再開への支援に全力を挙げて取り組んでまいります。
次に、防災力の強化についてであります。
7月30日に発生した、カムチャツカ半島付近を震源とする大規模な地震により、本県では東日本大震災以来となる津波警報が発表され、各地で数十センチメートルの津波が観測されました。幸いにして、県内では被害はありませんでしたが、防災の原点に立ち返り、平時から万全の備えをしておくことの重要性を改めて認識したところであります。
先月27日、総合防災訓練本部運営訓練を、自衛隊、警察、消防などの関係機関と連携して実施いたしました。当日は、広域的な災害応急対策活動を円滑に実施するため、南海トラフ地震が発生した場合を想定し、本県の即時応援県等として指定されている富山県には訓練への参画を、岩手県及び仙台市には訓練を視察いただき、被災県及び市町における広域的な応援・受援体制の確立に向けた準備をスタートさせました。
実動訓練につきましては、訓練参加者の熱中症への対策として、開催時期を秋に変更し、来月19日に焼津市、藤枝市との共催により実施いたします。訓練では、道路網の寸断による孤立化を想定した緊急物資輸送や、中学生等による避難所設営など、近年の災害における課題を踏まえた訓練を予定しております。
引き続き、12月の地域防災訓練や来年3月の津波避難訓練など、実践的な訓練を積み重ね、早期避難意識の向上や避難の実効性の確保に努め、防災力の更なる強化を図ってまいります。
次に、米国の関税措置への対応についてであります。
7月22日、日米両国は自動車・自動車部品関税や相互関税を15%とすることに合意いたしました。まずは、政府の粘り強い交渉努力に敬意を表します。
一方で、県内企業の業績見通しや先行き景況感については、関税の影響により減速への懸念が広がっております。
そのため、県としては、先に決定いたしました米国関税措置対策パッケージにより、資金繰り支援や新事業展開に取り組む事業者への支援などを着実に実施するとともに、引き続き県内の景気状況を注視し、更なる対策が必要となった場合には、県議会の皆様と緊密に連携しつつ、迅速かつ機動的に対応してまいります。
次に、次世代産業の育成についてであります。
第一に、次世代エアモビリティの社会実装に向け、都市部など建物が密集した地域における運航の実証と規制緩和の双方を進めてまいります。
実証については、都市部において離発着場所を確保するための解決策として期待されている、建物や立体駐車場の屋上の活用に向けて、先月27日、立体駐車場開発の知見を有する株式会社IHIと連携協定を締結いたしました。今後、立体駐車場等を活用した離着陸場整備に取り組んでまいります。
また、規制緩和については、先の全国知事会議において、私から、離着陸場の周囲に広い空間を必要とするなど、現行の航空機規制は、垂直飛行する次世代エアモビリティに即したものとなっていないとの問題提起をしたところであり、今後、必要な働きかけを進めてまいります。
第二に、ICOIプロジェクトでありますが、伊豆地域の温泉旅館の空きスペースをオフィスに改修し、スタートアップ等の企業誘致を目指す温泉旅館オフィス化事業の第一号として、本年7月、伊豆の国市の老舗旅館香湯楼井川に、地方創生事業等を手掛ける株式会社イノベーションパートナーズが入居することが決定しました。
今後も、本県の地域資源活用アドバイザーである小原嘉元氏に御助言いただきながら、温泉旅館と入居企業とのマッチングを後押しし、地元市町との緊密な連携の下、地域経済の活性化や雇用の創出、地域資源活用の先駆的モデルを構築してまいります。
第三に、CNFプロジェクトにつきましては、県内のファミリーマート約80店舗において、世界初となるCNFを配合した物流資材での商品配送と、再生利用に向けた実証事業を進めております。
来月16、17日には、国内最大規模のビジネスマッチングの場となる「ふじのくにセルロース循環経済国際展示会」を富士市で開催するほか、来年3月には、循環経済の先進地であるヨーロッパでの販路を構築するため、フランス・パリで開催される世界最大の複合材料の展示会「JEC WORLD 2026」に、県内企業3社と共に初出展するなど、産学官の連携の下、CNFの社会実装を一層加速させてまいります。
次に、茶業振興についてであります。
今年の一番茶の生産量は過去最低となり、初めて全国第2位に転落いたしました。本県茶業は再生に向け、将来を見据えた生産・流通体制への大きな変革と、ブランドの再構築が求められております。
世界に通用する静岡茶ブランドの構築に向けては、ブランド戦略のトータルプロデューサーとして世界で活躍している、佐藤可士和氏を総合プロデューサーに迎え、静岡茶ブランディングプロジェクトを開始し、現在、ブランドコンセプトや具体的な行動計画の策定などを進めております。
また、お茶の消費拡大、茶業振興に向けての当面の取組として、世界お茶まつり2025「秋の祭典」を、来月23日から26日までグランシップで開催し、有機栽培茶など海外で好まれる商品の展示販売、会場から海外消費者に向けたライブ配信、オンラインでの販路開拓の強化などに取り組んでまいります。
次に、リニア中央新幹線建設を巡る議論についてであります。
先月4日に開催した県の地質構造・水資源専門部会では、自然由来の重金属を含む要対策土の処理に関する対話を行いました。県としては、要対策土の減量・無害化を強く求めるとともに、要対策土置き場としてJR東海が検討する藤島については、工事実施計画に関する国土交通省の見解を求め、県盛土環境条例の適用除外要件を満たし得ると判断したところであります。
また、先月20日の生物多様性専門部会では、大井川上流域の水生生物等の生息状況調査の詳細について確認したほか、JR東海から、代償措置を行うに当たり、南アルプスの自然環境を現状以上に豊かにするネイチャーポジティブに取り組む方針が示される等、議論の進捗がありました。
先月27日には、大井川中下流域の8市2町の首長の皆様と、水資源の利用に影響が生じた場合の補償の対応等について意見交換を行いました。首長の皆様からは、国の関与や補償の対応について文書によることを求める御意見等をいただいたところであり、今後は、こうした御意見も踏まえ、JR東海及び国との調整を進めてまいります。
なお、JR東海から、トンネル工事の作業拠点となるヤードの用地造成等の実施について協議の要請がありましたが、県自然環境保全条例等に基づき適切に対応してまいります。
次に、駿河湾フェリーについてであります。
駿河湾フェリーは、台船破損及びプロペラ故障にかかる修繕がようやく完了し、今月12日から車両乗船を再開いたしました。
コロナ禍後の利用客の伸び悩みに加え、度重なる運休のほか、徒歩乗船に限られる期間が長期にわたったことから、今年4月から8月までの総輸送人員は、昨年度同時期の24%となる1万2千人にまで落ち込んでおります。加えて、人件費や燃料費の高騰などのランニングコストの増加により、多額の公的支援を経常的に必要とすることとなるなど、極めて厳しい状況であります。
県としましては、運航法人等と連携して収支の見直しを徹底的に行い、フェリーの経営計画を現実的なものとした上で、江尻地区移転後初となる通常運航を追い風に、利用者確保と経営安定化に最大限の努力を行ってまいります。
その上で、駿河湾フェリーの今後のあり方については、1年後となる来秋をめどに運航実績や経営状況を改めて検証し、運航継続の是非を含めた経営判断を行ってまいります。
この厳しい認識を前提とし、本議会に、当面の法人のキャッシュフロー不足の解消に必要な経費について、お諮りさせていただいております。
次に、新県立中央図書館の整備についてであります。
7月31日、県議会文教警察委員会から教育長に対して、事務の適正執行を求める申入れが行われました。この申入れに対し、教育委員会で行った調査結果について、本議会の文教警察委員会に調査結果を御報告いたします。
今後、部局間の情報共有や連携を更に強化するとともに、県議会に丁寧に説明するなど、全庁挙げて再発防止に努めてまいります。
図書館の整備につきましては、塚本副知事をトップとした庁内横断のプロジェクトチームで検討を進めてまいります。
見直しにあたっては、「機能性」、「経済性」、「東静岡地区のまちづくりとの一体性」の3つの視点を重視するとともに、デジタル技術の進展等の社会情勢の変化や、全体事業費を見据えながら、図書館の機能を再整理してまいります。
次に、富士山の登山規制についてであります。
初めて登山規制を実施いたしました富士山につきましては、今月10日に閉山を迎えました。
今シーズンの富士山入山者は約10万3千人となったほか、富士登山のルール・マナーの学習や入山料納付を扱う「静岡県FUJI NAVI」アプリは、想定を上回る約8万2千人に利用され、遭難事案も有意に減少するなど、登山規制には一定の効果があったものと受け止めております。
今後、来年に向けて、今年の登山規制の結果を検証し、課題の分析と改善に取り組んでまいります。
次に、多文化共生の推進についてであります。
我が国に在留する外国人は、令和6年末で約377万人に達しており、在留外国人の定住化に伴う教育、生活支援、就労等に関する様々な課題は、受け入れ自治体任せではなく、国全体に関わるものと受け止めていくべきであります。
全国知事会では、私がリーダーを務めるプロジェクトチームにおいて、国が多文化共生施策に主体的、戦略的に取り組むための基本法の策定や、司令塔組織の設置等を求める提言を取りまとめ、先般、鈴木法務大臣ほか、政府に対し要請を行ったところであります。
本県は、外国人県民を「まちづくりを進める重要なパートナー」と捉え、同じ県民として活躍できる社会を作っていけるよう、引き続き、多文化共生施策を推進してまいります。
次に、東京2025デフリンピック自転車競技の本県開催についてであります。
耳がきこえない、きこえにくい人のためのオリンピックであるデフリンピックが初めて日本で開催され、本県では、11月17日から25日にかけて、伊豆市の日本サイクルスポーツセンターを会場に自転車競技が行われます。
本県は、この大会を契機として、小中学生の観戦招待や出前授業、手話の普及啓発等、デフスポーツに対する認知度向上、聴覚障害への理解促進のための事業を展開しており、障害の有無にかかわらず誰もが活躍できる社会の構築に向けて、取り組んでまいります。
次に、静岡県動物愛護センターについてであります。
新たな動物愛護施策の拠点として、富士市に整備を進めております動物愛護センターが、11月22日に開所いたします。
県民から親しまれ、末永く愛される施設となるよう、開所に先立って一般公募で愛称を募集し、105件の応募の中から、動物の命をバトンでつなぐという想いを踏まえ、「しっぽのバトン」と決定いたしました。
施設特定型として初めて、センター内の諸室等について、ネーミングライツパートナーの募集を行い、ドッグランは株式会社コーチョーがパートナーとなり、愛称を「コーチョードッグラン」とし、ふれあいエリアは、日本ペットフード株式会社がパートナーとなり、愛称を「ビタワンふれあいエリア」といたします。
今後は、多くの皆様に御利用いただき、センターを核として、動物愛護の気運の醸成に取り組んでまいります。
次に、カスタマーハラスメント防止対策についてであります。
顧客等からの著しい迷惑行為として近年社会問題化しているカスタマーハラスメントは、働く人を傷つけるだけでなく、就業環境を害し、事業者の安定した事業活動に悪影響を及ぼすものであります。
県では、カスタマーハラスメントの防止について基本的な事項を定める条例の制定に向けて、経済団体、労働団体等で構成する協議会で議論を進めてまいりましたが、この度、条例案をとりまとめ、本議会にお諮りしております。
次に、遠州灘海浜公園篠原地区の整備についてであります。
公園整備にあたり、民間事業者のノウハウを活用した集客力と収益性の高い施設や利活用方法の導入、民間投資の可能性等を探るため、「利活用提案公募」を、7月11日から今月5日まで実施し、9者から提案をいただきました。
今後は、民間事業者からの提案を踏まえ、利活用推進協議会において、公園を含む全体的な利活用の構想等を策定してまいります。