無題
無題 25歳 女性
本当でした。「覚醒剤やめますか。それとも人間やめますか。」
それは平成17年の5月、私は夢遊病者のように白い粉を求め、シャブ(覚醒剤)の密売人と同棲を始めました。心配する両親は、電話に出ない私の携帯電話に再三メールを送り続けてきましたが、私はただそれがうっとおしいだけで、何の意味もありませんでした。
もう私は人間をやめ、気の狂った動物だったのです。
密売人は、毎日何度もただでシャブを腕の血管に打ってくれ、彼の深い愛と快感にまるで天国にいるようでした。互いにシャブを通じて成り立っていた希薄な関係、実はそこに愛など全く存在していなかったことを、その時私は知るよしもありませんでした。実は恐ろしい地獄の序章だったのです。
私の体はボロボロになり、それでも私は彼にシャブをねだり、彼は私にシャブを打ち続けてくれました。
ついに、いや当然のごとく私は幻覚、幻聴が激しくなり、心臓が止まりそうなほどの苦しみに、このままでは死んでしまうという恐怖感に襲われ、死の淵に立つ私の最後のあがきだったのでしょうか、彼に救急車を呼んでほしいと泣きながらお願いしたのです。
しかし彼の言葉は「そんなもん呼べるか。」の冷たい一言でした。
それでも苦しい私は、彼にすがりつき何度も何度も「助けて!お願い!助けて!」と体力を失った体から精一杯声を出しましたが、彼は「うるさい、死ね。」と私を突き倒して逃げてしまいました。
私は、幻覚の中、通行するタクシーに体当たりし、それが元で警察に保護され、死から生還した安心感からか意識を失ったのです。その間私は、警察から病院に搬送されて鎮静剤を何度も打たれたそうです。
そして尿検査の結果、覚醒剤使用で逮捕されたのです。
しかし地獄はまだ終わっていませんでした。留置場でシャブの薬理作用から体全体と頭が割れんばかりの痛みに襲われ、とても我慢できず度々大暴れし、多人数のおまわりさんに付き添われ、何度も救急車で病院に搬送されました。
苦しい4ヶ月間が過ぎ、やっと小康状態となった頃、執行猶予付きの判決を受けて両親が住む実家に帰ることができたのです。
私のシャブの始まりは、当時付き合っていた彼から勧められて好奇心から使いました。嫁入りにと働いて貯めた200万円がいつの間にかシャブ代に消え、シャブを買うために、時給の高いホステスとして働き出しました。白い粉の誘惑の罠にはまり、私はすべてを失い、恐怖体験だけが残りました。
元気な私に戻った今は、警察署の前を通りながら深く頭を下げ、心の中で「おまわりさん、命を助けて頂いてありがとう。」と感謝の声を叫んでいます。
本当でした、あの標語。
「覚醒剤やめますか。それとも人間やめますか。」
警察庁発行 「けいさつのまど(特集号)」より
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