不当労働行為の審査
- こんなことで困ったときは
- 不当労働行為とは
- 審査の概要
申立て→(答弁)→調査→(立証責任)→審問→判定→(和解)→(不服申立て)
1 こんなことで困ったときは
私たちの会社では、同業他社と比べて賃金も低く、労働時間も長いなど、労働条件が低いので、従業員が集まって労働組合をつくり、Aさんを執行委員長に、Bさんを書記長に選出しました。
そして、賃金引上げなどの要求を決めて、社長に要求書を提出し、団体交渉を求めたところ、社長は「AやBには普段から目をかけてやったのに、組合を作って要求するなどけしからん。」などといって、Aさん、Bさんを解雇してしまいました。
そして「組合などは認めないから団体交渉に応じない。」といっております。
また、他の組合員に対しても、身元保証人を通じて組合を脱退するように工作しています。
社長のこのような行為に私たちは何もすることができないのですか。
このようなときのために不当労働行為の救済制度があります。
2 不当労働行為とは
使用者が労働組合活動に対して行う妨害的行為は、憲法に保障された団結権、団体交渉権、争議権のいずれかに対する侵害行為であり、労働組合法第7条では、使用者の次のような行為を「不当労働行為」として禁止しています。
(1)不利益取扱い(第1号)
ア.労働者が、
- 労働組合の組合員であること
- 労働組合に加入しようとしたこと
- 労働組合を結成しようとしたこと
- 労働組合の正当な行為をしたこと
を理由に、当該労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。
イ.労働者が、労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること(いわゆる黄犬契約)。
(2)団体交渉拒否(第2号)
使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。
使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(不誠実団交)も、これに含まれます。
(3)支配介入(第3号)
- ア.労働者が、労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入すること。
- イ.労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること。
(4)報復的な不利益取扱い(第4号)
労働者が、労働委員会に対し不当労働行為の申立てをし、若しくは中央労働委員会に対し再審査の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに関し調査若しくは審問をし、若しくは労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言したことを理由として労働者を解雇し、その他の不利益な取扱いをすること。
以上のようなことを使用者が行ったときは、労働者又は労働組合は、労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てることができます。
3 審査の概要
労働委員会では、これらの不当労働行為から労働者を救済するため、労働組合等からの申立てに基づき審査を行います。
審査は、公益委員が審査委員となり、審査の指揮に当たり、労働者委員と使用者委員はそれぞれ参与委員として審査に加わります。
審査手続の流れは、おおまかには次のとおりです。
申立て→調査→審問→判定
申立て
あて先
- 不当労働行為を受けた労働者の住所地、又は労働組合の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働委員会
- 不当労働行為の当事者である使用者の住所地、又は主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働委員会
- 不当労働行為が行われた地を管轄する都道府県労働委員会
- 報復的な不利益取扱い(労働組合法第7条第4号)の場合は、その原因となった不当労働行為事件又は調整事件が係属する、若しくは係属した労働委員会
時期
不当労働行為であると主張する行為があった日(継続する行為であるときは、その行為の終了した日)から1年を経過した事件については、都道府県労働委員会に救済申立てをすることができません。
なお、地方公営企業等の労働関係に関する法律第12条の規定による解雇(争議行為禁止に違反した場合)についての申立ては、この解雇がなされた日から2か月以内に申し立てなければなりません。
提出書類
- 不当労働行為救済申立書等記載例
-
資格審査申請書等記載例
(個人申立ての場合は不要)
労働組合が申立てをするには、その労働組合が労働組合法第2条(自主性)と第5条第2項(民主性)の規定に適合していなければなりません。
そのため、これらの規定に適合しているかどうかの審査を受ける必要があります。
答弁
労働者又は労働組合から申立てがあると、労働委員会は申立書の写しを使用者(被申立人)に送付します。
使用者(被申立人)は申立人が申立書の中で主張している事実等に対して、使用者の考えを答弁書にまとめ、労働委員会が定めた日まで(原則として、申立書写しを受領した日から10日以内)に提出することになっています。
調査
調査では、審査委員が申立人と被申立人の両当事者から主張を聞き、それぞれの主張を証拠だてる資料の提出を求め、争点や審問に必要な証拠の整理等を行います。
調査は非公開で行われますから、傍聴はできません。
調査(審問も同じ)は、当事者の出席を求めて行われますが、この場合当事者は、代理人や補佐人を伴って出席することができます。
その場合は、代理人申請書、補佐人申請書を提出してください。
調査(審問も同じ)の経過は事務局職員により調書として記録され、当事者は閲覧も可能です。
- 争点整理
調査では、当事者の主張の中ではっきりしない点等について、当事者に質問(求釈明)を行いますので、当事者は主張を補充(釈明)してください。
その結果、相手方からの新たな主張が出た場合は、それを認めるのか、それとも争うのか、さらにそれに対する反論があればこれもあわせて主張してください。このような主張又は反論等を行うためには準備書面を提出する必要があります。
- 証拠の提出
労働委員会は、主として当事者から提出された証拠を調べることにより、ある事実の存否について一応確からしいという心証(疎明)に基いて、事実を認定し、不当労働行為の有無を判断します。
証拠には、主として、事実の存否を証明する文書(書証)と、事実の存否を知っている人証とがあり、その提出方法は、次のとおりです。- ア.書証の申出
- 事実の存否を証明する文書(書証)を、文書の表示、文書の作成者及び立証の趣旨(どのような事実を証明するか)を記載した証拠説明書とともに提出する方法(申立人が提出する書証には「甲第○号証」、被申立人が提出する書類には「乙第○号証」として、それぞれ一連番号を付してください。)
- 事件に関係のある帳簿書類等の物件であって、一定の要件を満たす物件の所持者に対して、労働委員会が物件提出命令を発することを申し立てる方法(物件提出命令は、労働委員会が一定の要件を満たすと認めた場合にのみ行います。)
- イ.証人等の尋問の申出
- 事実の存否を知っている人を、証人(又は当事者)として尋問することを申し出る方法(証人等の尋問を申し出る場合は、証人の氏名及び住所、尋問に要する見込みの時間並びに証明する事項を明らかにするとともに、その証人等に尋問する事項を記載した尋問事項書を提出してください。)(証人等尋問申出書及び尋問事項書の提出)
- 事実の存否を知っている人が証人等として出頭しない場合、労働委員会が証人等出頭命令を発して尋問を行うことを申し立てる方法(証人等出頭命令は、労働委員会が必要と認めた場合にのみ行います。)
- ア.書証の申出
- 審査計画の策定
審問開始前に、調査手続において整理された争点及び証拠、審問の回数、救済命令等の交付の予定時期等を記載した審査計画を策定します。これにより、計画的、効率的な審査の実施を図ることとします。
立証責任
立証責任は、原則として申立人側にあります。
当事者は、自己の主張する事実が真実であることを、審査委員に理解してもらうために、自己の主張する事実の裏付けとなる証拠をあげる必要があります。
当事者の主張について、相手方が「認める」とした事項は、労働委員会は特に調べません。
相手方が「否認」又は「不知」とした事項は、主張者側が証拠を出して、その事実を裏付けなければなりません。
(1)労働組合法第7条第1号の解雇その他の不利益取扱事件の場合
申立人は、解雇その他の不利益取扱いの理由が組合員であること、組合に加入し若しくは組合を結成したこと、正当な組合活動をしたこと、のいずれかによるものであることを立証しなければなりません。
つまり、
- ア.「組合活動の事実」
- イ.「不利益取扱いの事実」
- ウ.「アとイの因果関係(いわゆる不当労働行為意思)」
について立証しなければなりません。
因果関係の立証といっても、使用者の内心の意思を確証をあげて証明することは不可能に近いことです。
ですから、「使用者に数々の反組合的態度の事実がある」、「使用者の理由としている事実は従前は何ら処分の対象にならなかった」、「被処分者は組合活動を活発に行っていた」、「使用者の被解雇者に対する評価が組合結成後又は争議行為後短期間に大幅に変化している」などの間接的な事実によって客観的にその存在が推定されるように立証すればよいことになっています。
これに対して、被申立人は、「被解雇者または被処分者に就業規則違反があった」、「勤務成績不良などの事実があった」、「経営上の都合によるものである」、「正当な組合活動ではない」などの事実を反証としてあげることになります。
(2)労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否事件の場合
申立人は、「交渉申し入れの事実」、「交渉を申し入れた者の権限」、「使用者が団体交渉を拒否している事実」について、被申立人は、「交渉を拒否することに正当な事由が存在すること」について、それぞれ立証することになります。
(3)労働組合法第7条第3号の支配介入事件の場合
申立人は、「労働組合を結成運営している事実」、「使用者の支配介入の事実」について立証することになります。
被申立人は、「そのような事実はない、事実を誤解している」などの反証をあげることになります。
(4)労働組合法第7条第4号の報復的不利益取扱事件の場合
申立人は、「不当労働行為の救済申立てをしたこと」、「不当労働行為事件の審査手続又はあっせんなどの調整手続において、労働者が証拠を示したり、発言したことを理由に不利益な取扱いを受けたこと」を立証しなければなりません。
これに対して、被申立人は、「処分をした理由はほかにあって、その理由が正当なものである」ことを立証することになります。
審問
審問では、公開の審問廷で、審査委員が両当事者の立会いのもとに証拠として出された書類や証人を調べます。
証人は、労働委員会からの呼出状に従って審問期日に出頭することになります。
(1)人定尋問
証人尋問は、審査委員の行う人定尋問から始まり、証人に対し、氏名、年齢、住所、職業などについてお聞きします。
これは、人違いがないかどうかを確かめるために行われます。
(2)証人尋問
証人は、陳述に先立ち、宣誓書に署名押印し、起立の上、宣誓書を朗読することにより宣誓を行います。尋ねられたことに対しては、良心に従い、真実を述べなければなりません。自分の経験した事実をありのまま述べてください。
労働者が証人として陳述する場合、その証言がたとえ使用者に不利な内容のものであっても、その故をもって、使用者から解雇その他の不利益な取扱いを受けることがないように法律(労働組合法第7条第4号)で保護されています。
証人尋問は、通常その証人を申請した当事者が尋問します(主尋問)。
これが済むと、相手方が反対尋問を行い、続いて、審査委員と労使の参与委員からの補充尋問が行われます。
証人尋問に際しては、次の点に注意してください。
- 事件の核心に触れた事実について、簡潔、明瞭かつ具体的に質問し、証人がその事実を知っているかどうかを尋ねること。
- 事実に関係のないことは質問しないこと。
- 証人に対して「どう考えるか」など証人の意見を求めるような質問や、証人が直接経験しなかった事実などについて陳述を求めることは避けること。
- 具体的でない質問、重複する質問、誘導的な質問等は行わないようにすること。
- 当事者は証拠として提出されていないもの等を証人に示して証言させないこと。
- 証人は審査委員に許可なく証人席でメモなどを見ないこと。
- 証人は自己の証言が終わるまでは原則として他人の証人尋問を傍聴しないこと。
(*)証人調べが終わると審問は終結し、両当事者は、最後陳述を行います。
最後陳述では、審問の全経過を振り返り、争点について自己の主張と、その根拠とする事実を整理して、最後陳述書として提出してください。
書き方等については、準備書面に準じて作成してください。
判定
審問に参与した労働者委員と使用者委員の意見を聞いた後、公益委員による合議で事実を認定します。
労働委員会は、この認定に基づいて、不当労働行為に当たるか否かを判断し、当事者に命令書(写)を交付します。
(*)命令ではなく申立てを排除する場合もあります(却下)。
(1)命令
労働委員会の救済命令は、裁判所の判決のように、法律関係の確認、給付、形成を行うものではなく、不当労働行為が発生した場合に、行政処分として、その行為の禁止、必要な具体的措置、将来の再発の防止措置などを使用者に命ずるものです。
- ア.全部救済命令:申立人の求める救済内容の全部を理由ありとして認めるもの
- イ.一部救済命令:一部について理由ありとして認めるもの
- ウ.棄却命令:申立人の主張している事実が認められないか、又は不当労働行為に当たらないと認定した場合で、申立てを理由なしとして取りあげないもの
命令書には、
- 主文
- 申立人の請求する救済内容(要旨)
- 理由(認定した事実、労働委員会の判断、法律上の根拠)等が記載されます。
(2)決定(却下)
申立て内容について審査をするまでもなく、その申立てを排除するもので、いわば門前払いをする場合をいいます。却下も行政処分です。
申立てが却下される場合は、次のいずれか一つの事由に該当するときです。
- ア.申立てが労働委員会規則第32条に定める要件を欠き、労働委員会の補正勧告に対しても補正されないとき。
- イ.労働組合が申立人である場合に、その労働組合が労働組合法第5条の規定により労働組合法の規定に適合する旨の立証をしないとき。
- ウ.申立て(地方公営企業等の労働関係に関する法律第12条の規定による解雇にかかるものを除く)が行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件にかかるものであるとき。
- エ.地方公営企業等の労働関係に関する法律第12条による解雇にかかる申立てが、解雇がなされた日から2か月を経過した後になされたとき。
- オ.申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき。
- カ.請求する救済の内容が、法令上または事実上実現することが不可能であることが明らかなとき。
- キ.申立人の所在が知れないとき。申立人が死亡若しくは消滅し、かつ、申立人の死亡若しくは消滅の日の翌日から起算して6カ月以内に申立てを承継するものから承継の申し出がないとき、又は申立人が申立てを維持する意思を放棄したものと認められるとき。
和解
労働委員会では、審査の過程で、労使間で話合いによる解決の機運が生じた場合には、審査委員は労使双方に和解を勧めます。
和解の方法としては次の2つがあります。
- 当事者双方が自主的に話し合って解決する方法(自主和解)
- 労働委員会がその話し合いの中に入って解決する方法(関与和解)
このうち、関与和解は次の場合に行われます。
- 当事者双方又は一方から、労働委員会の関与による和解で解決したいと申し出(口頭又は文書)があったとき
- 審査委員が和解の勧告を行い、当事者双方に和解で解決する意思があると確認されたとき進め方としては次の方法で行われます。
- 当事者双方から和解条件を提出してもらう
- 申立人側は労働者側の参与委員を、被申立人側は使用者側の参与委員を通じ、当事者双方の意向を打診する
- 労働委員会から当事者双方に対して和解案を示して、お互いの歩み寄りを図る
その結果、当事者双方が、和解条件について合意した場合には協定書を作成し、審査委員及び参与委員が立会人となり当時者双方が調印します。(※)和解が成立したときは、次のいずれかの方法により審査手続を終了します。
- 不当労働行為救済申立ての取下げ(不当労働行為救済申立取下書の提出)
- 労働委員会による和解の認定(救済命令等が確定するまでの間に当事者間で和解が成立した場合において、労働委員会に当事者が和解の認定の申立てをした場合、労働委員会がその和解の内容が当事者間の労使関係の正常な秩序を維持させ、又は確立させるために適当と認めるとき(和解の認定)は、審査の手続は終了し、既に発せられている救済命令等は失効します。)
(※)労働委員会の認定を受けた和解の内容に、金銭の一定額の支払等を内容とする合意が含まれている場合、労働委員会は、当事者双方の申立てがあれば和解調書を作成します。この和解調書は、民事執行法上の債務名義(一定の私法上の給付義務の存在を証明し、法律によって、給付内容を強制執行によって実現できる効力が付与された公正の文書)とみなされます。
不服申立て等の方法
都道府県労働委員会の発した命令に不服がある当事者は、中央労働委員会に再審査の申立てをしたり、地方裁判所に命令の取消しを求める行政訴訟(取消訴訟)を提起することができます。
(1)中央労働委員会への再審査申立て
命令書(写)又は決定書(写)を交付された日から15日以内に、中央労働委員会に対し、その取消し又は変更を求めて再審査の申立てをすることができます。
(2)地方裁判所への取消し訴訟の提起
使用者にあっては、命令の交付日から30日以内に、労働者又は労働組合にあっては、命令のあったことを知った日から6か月以内に、それぞれ地方裁判所に対し、命令の取消しの訴えを提起することができます。
(※)期間は交付の日の翌日から起算します。
都道府県労働委員会の救済命令に対して、中労委に再審査の申立てをせず、又裁判所に命令取消しの訴えも提起することなく確定した場合に、この命令に違反すると50万円以下の過料に処せられます。
この場合、作為命令(原職復帰、バックペイ、団交応諾など)に従わないときは、50万円(その命令の日の翌日から起算して不履行の日数5日を超える場合にはその超える日数1日につき、10万円がの割合で算定した金額を加えた金額)以下の過料に処せられます。
また、裁判所に命令取消しの訴えが提起され、確定判決によって命令の全部又は一部が支持されたにもかかわらず、これに従わない場合は1年以下の禁錮若しくは100万円以下の罰金に処し、又は併料されることになります。
このページに関するお問い合わせ
労働委員会事務局調整審査課
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