懸念3 トンネル発生土による南アルプスの環境への影響
県が心配していること
JR東海によれば、静岡工区のトンネル工事(本坑、先進坑、斜坑、導水路トンネル、工事用トンネル)によって発生する土(トンネル掘削土)は、約370万立方メートルです。
これは東京ドーム約3杯分に相当する量であり、この大量のトンネル掘削土を、流域8市2町の水源である大井川の川沿いに、永久に存置する計画です。
県は、トンネル掘削などの建設発生土の処理に伴う大規模な土地改変が、南アルプスの環境に影響を及ぼすことを心配しています。
法令に基づき、環境保全の見地から、平成26年に知事意見を述べ、発生土置き場が恒久的な施設となる場合は、土石流、地すべり、深層崩壊等の大規模な土砂移動、濁水の流出、細かい粒子の底質への堆積なども想定し、生態系全体や景観への影響も考慮した調査を実施した上で、将来の土地利用も見据え、対策を講ずることを求めています。
JR東海の発生土置き場計画
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ツバクロ発生土置き場
- トンネル掘削土約360万立方メートルは、燕沢(つばくろさわ)付近に、約70メートルの高さに盛土する計画です。
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藤島発生土置き場
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トンネル掘削土のうち、基準値を超える自然由来の重金属等を含む「要対策土」といわれる土が出た場合は、藤島沢(ふじしまさわ)付近に、二重遮水シートで覆って盛土する計画です。
現時点では、約10万立方メートルの盛土をする計画です。
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その他の発生土置き場
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JR東海は、「ツバクロ発生土置き場」の盛土量を低減するため、複数の候補地(イタドリ、中ノ宿2、中ノ宿3、剃石(すりいし))にトンネル掘削土を分散配置する検討も進めています。
なお、候補地の中で奥大井県立自然公園の特別地域(※)に該当している場所は、静岡県立自然公園条例の許可が必要です。
※自然公園の風致を維持するため、公園計画に基づいて指定された区域。工作物の新増改築等の一定の行為は、許可が必要。
JR東海との対話の状況
対話のポイント
(1)ツバクロ発生土置き場の位置の選定
トンネル掘削土のうち約360万立方メートルは、燕沢(つばくろさわ)付近に、約70メートルの高さに盛土する計画です。
ツバクロ発生土置き場が計画されている南アルプスは、脆弱な地形・地質であり、国土交通省河川局砂防部監修、独立行政法人土木研究所作成の「深層崩壊推定頻度マップ」において、深層崩壊が発生する頻度が「特に高い地域」に分類されています。
また、周辺の沢で土石流等が同時多発するおそれがあり、専門部会委員から、対岸の河岸浸食による斜面崩壊の発生や土石流の緩衝地帯としての機能の低下により、ツバクロ発生土置き場があることで自然環境に影響を及ぼすリスクが指摘されています。
このような特殊な場所に大規模な盛土をすることに対し、県は、JR東海に対し、発生土置き場として本当に適地であるのか、懸念を払拭することのできる説明を求めています。
JR東海は、ツバクロ発生土置き場があることの影響について、登山者等が滞在する椹島ロッヂにおける人命と財産を守るべき対象とし、椹島付近に焦点をあてて検討を進めています。
その上で、土砂流出シミュレーションの結果、「ツバクロ発生土置き場があることによる影響は、椹島付近でほとんど見られない」と説明しています。
これに対し、県は、人命と財産への影響はもちろんのこと、南アルプスの生態系や景観、水資源などの環境への影響も考慮が必要であると考えています。
更に、専門部会委員からは、「JR東海のシミュレーションの条件設定が過小ではないか」という指摘があり、静岡市からは、「より大きな崩壊土砂量を想定すべき」との見解も示されています。
引き続き、発生土置き場として適地であるかどうかや、発生土置き場があることによるリスクに対する認識の共有について、JR東海と対話を進めていきます。
(2)自然由来の重金属等を含む「要対策土」置き場(藤島発生土置き場)
トンネルを掘ると、基準値を超える自然由来の重金属等(ヒ素、セレン等)を含む、「要対策土」と言われる土が出る場合があります。要対策土を処理するには、特別な対応が必要となります。
JR東海の現在の計画は、藤島沢(ふじしまさわ)付近に二重遮水シートで覆って盛土をするというものですが、令和4年7月1日に施行された「静岡県盛土等の規制に関する条例」では、要対策土の盛土は、原則禁止されています。
そのため、現在のJR東海の計画は、条例上認められません。
県専門部会では、オンサイト処理(※)などを提案していますが、これまでのところ、JR東海から新たな計画は示されていません。
※オンサイト処理…要対策土を現地で浄化処理する方法
大切な水源である大井川上流の河畔に、県盛土条例の土砂基準を超える重金属等を含む土砂を存置することで、流域の住民の皆様が抱く不安が長く続くことにならないように、地質構造・水資源部会専門部会において対話を続けていきます。
静岡県中央新幹線環境保全連絡会議 地質構造・水資源部会専門部会
県は、南アルプスにおけるリニア中央新幹線トンネル工事が大井川水系の水資源等に及ぼす影響を科学的根拠に基づき明らかにするため、地質学や地下水学などの専門家を委員とした「地質構造・水資源部会専門部会」を設置し、JR東海と対話を行っています。
国の有識者会議
南アルプスの地質構造
南アルプスは、地層が激しく褶曲(しゅうきょく)している(地層が波のように曲がっている)山脈であり、地質がもろいため、これまでも地震や豪雨に伴い山体の大規模な崩壊が発生しています。
また、南アルプスの主稜線部における隆起速度は、年間4mm以上とされ、この隆起速度は世界的にも最速レベルです。(出展:静岡大学地球科学研究報告第42号(2015年7月))
典型的な崩壊地「赤崩」
赤崩は、南アルプスでみられる典型的な深層崩壊地です。
最上部の稜線付近では、山地崩壊の初期過程で見られる「線状凹地」が多数形成されて、なだらかな地形を造っています。
赤崩から流れ出た大量の砂礫(されき)は、約1000m下の大井川に注がれるように落ちて扇状地を形成しています。
崩壊地からの土砂供給は現在も続き、大井川の河床に堆積しています。
線状凹地の説明など、もっと詳しく知りたい方は、以下の関連動画「南アルプス大井川上流域における地質と地形の成立ち」等を御覧ください。
関連情報
- 南アルプス大井川上流域における地質と地形の成立ち【概要版】(外部リンク)
- 1章 南アルプスと大井川上流域の概要(外部リンク)
- 2章 太古の海が生んだ南アルプスの基盤地質(外部リンク)
- 2章【付録】 付加体形成の再現実験(外部リンク)
- 3章 日本列島と南アルプスの形成(外部リンク)
- 3章 日本列島と南アルプスの形成(外部リンク)
- 4章 南アルプスと駿河湾(外部リンク)
- 5章 南アルプスの岩石(外部リンク)
- 6章 南アルプスの地形と崩壊(外部リンク)
- 7章 南アルプスの地質・地形が造る動植物の生息環境(外部リンク)
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このページに関するお問い合わせ
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