令和4年度静岡県試験研究10大トピックス
10大トピックスとは
静岡県の産業振興や県民生活の質の向上を目的として様々な試験研究を行っている県の試験研究機関において、特に顕著な成果のあった研究を、「静岡県試験研究10大トピックス」として紹介します。
令和4年度静岡県試験研究10大トピックス
有機栽培に対応!病害虫・雑草を物理的に防除できる茶園管理機の開発(茶業研究センター、農林技術研究所)
課題
世界的な日本食ブームや健康志向の高まりなどから、有機栽培茶の需要は拡大しているが、本県における栽培面積はほぼ横ばいで推移している。その主な要因は病害虫発生による収量・収益の低下、除草作業等に要する時間の増加である。この課題に対応するため、化学合成農薬を使用せずに病害虫を防除する方法や、省力化した除草技術の開発が求められている。
成果
県内企業と共同で、送風により罹病葉や害虫を除去(物理的防除手段)する茶園用病害虫クリーナーを開発した。本機での処理により、茶の重要病害である炭疽病の発生を無処理の約半分に抑制できた。
茶園用病害虫クリーナーに装備できる搭載型除草機も開発した。本機は、うね間と樹冠下の同時除草が可能であり、年間の除草時間を慣行比38%まで削減できた。
今後の予定
開発した機械を普及するため、市販化に向けた開発機の改良・性能評価を行い、令和6年度の商品化を目指す。
世界初のワサビF1品種「ふじみどり」の育成(伊豆農業研究センター)
課題
ワサビは静岡県を代表する特産品であり、国内のみならず世界から注目を集めている。需要の高いワサビの生産量を増やす上で、苗の安定供給や夏に水が少ない条件の悪いわさび田(下等田)の活用が課題となっている。
成果
伊豆農業研究センターは、ワサビで世界初のF1品種※として、種子で増やす増殖効率の良い「ふじみどり」(写真左)を育成することに成功した。この品種は、県育成品種「伊づま」(写真右)と比較して地上部の成長が旺盛で根茎の肥大は同程度に優れている。
夏期に一時的に通水を停止したワサビ田でも高い生存率を示すことから、下等田を含む広い範囲での利用が期待されている。
※異なる系統の交配一代目において、親系統よりも優れた形質を発現する現象(雑種強勢)を利用して育成した品種。
今後の予定
令和5年度中に県内のワサビ生産者団体等と栽培の許諾契約を締結し、生産現場への普及を図る。
クラウドファンディングを活用して、成長や品質に優れた無花粉スギ品種 「MU-FUN」(むふん)を開発(森林・林業研究センター)
課題
花粉症は社会的な問題となっており、対策が求められている。森林資源の循環利用に向け、花粉が出ないなどの花粉症対策品種の開発と普及が必要である。
成果
森林・林業研究センターは、クラウドファンディングを通じた支援を受け、無花粉の遺伝子を持ったスギを交配することで、初期成長や材質が優れ「林業」に適した花粉が全く出ない無花粉スギを開発した。
この品種は、国の評価委員会で花粉症対策品種と認められた。
さらに、SNSなどで研究内容と成果を全国に広く発信し、多くの関心を集めた。同時に愛称を募集し、370点の応募の中から愛称は「MU-FUN(むふん)」に決まった。
今後の予定
「MU-FUN」の苗木を学校や企業に提供するとともに、山林での遺伝的多様性を維持するため、無花粉品種の開発を継続する。
牛ふん堆肥を機械で撒きやすい粒状に成型(畜産技術研究所)
課題
水田を中心に、堆肥などの有機物の投入不足による地力の低下が全国的な問題となっており、特に大規模水田・畑作経営では、機械による堆肥と肥料の同時散布が望まれている。しかし、堆肥散布には専用の機械が必要であり、化学肥料との同時散布が困難であるため、成形した堆肥の流通が求められている。
成果
県内企業と共同で、牛ふん堆肥を化学肥料と均一に混合できる粒状の成形堆肥の加工技術を開発した。この技術は、既存のペレット成形よりも簡単に加工ができる特徴があり、化学肥料との混合が容易で肥料成分の調整ができるため、野菜栽培農家の畑を使った実証試験でも高い評価を得た。
今後の予定
共同研究を行った肥料メーカーと協力し、堆肥の粒状成型施設の整備と、粒状成型堆肥の販路開拓を行う。
キンメダイ種苗生産のために、精子の冷蔵保存技術を開発(水産・海洋技術研究所)
課題
伊豆地域の重要な漁獲対象であるキンメダイは漁獲量が年々減少しているため、静岡県では、卵から幼魚期まで飼育し、放流を行う種苗生産の研究を行っている。種苗生産には受精卵が必要であるが、キンメダイは雌雄で成熟期が一致しないため、人工授精において冷蔵保存などの調整が必要である。
成果
キンメダイの精子の冷蔵保存に適した溶液を開発した。この溶液を使用した精子は、最長で81日間の冷蔵保存期間においても運動能力を保持した。冷蔵保存された精子を使用して行われた人工授精の結果、受精させた卵が孵化し、キンメダイの精子の冷蔵保存技術が開発された。また、成果は日本水産学会誌に投稿され、受理された。
今後の予定
開発された保存液を利用し、種苗生産試験を効率的に進める。
食中毒原因物質ヒスタミンの簡易検査手法の開発(水産・海洋技術研究所)
課題
食中毒原因物質であるヒスタミンは劣化した赤身の魚に蓄積される。ヒスタミン食中毒のリスクを軽減するために、ヒスタミンの濃度管理は重要である。ヒスタミン濃度を測定できる検査ツール(商品名:スワブ)が開発されたが、スワブを有効に活用するためには、魚種や部位で前処理方法を調整する必要があり、静岡県では特産品であるカツオのヒスタミン濃度を簡易的に測定できるマニュアルが求められている。
成果
スワブを用いたカツオのヒスタミン濃度の測定において、新たな簡易操作マニュアルを作成し、船上での検査の有用性を確認することで、効率的で正確な検査方法を確立した。
また、県内の主要加工品である鰹節についても簡易的にヒスタミン測定を行う方法を開発し、簡易マニュアルを作成した。
今後の予定
漁業関連団体や水産加工組合・団体と共に測定講習会等を実施し、簡易検査法を普及させる。
炭素繊維強化複合材料(CFRP)の生産性を向上(工業技術研究所)
課題
次世代自動車などの成長産業分野では環境問題や燃費規制に対応するため、材料の軽量化が必要である。軽量・高強度な炭素繊維強化複合材料(CFRP)はこの問題の解決策の1つとされている。本研究では、熱可塑性樹脂を用いた生産性の高いCFRP成形技術の確立を目的とした。
成果
炭素繊維の束を熱可塑性樹脂で固めた成形基材を効率よく作製する技術を確立し、その基材を複雑形状製品に短時間で成形できるCFRP用成形機を設計・導入した。
高強度の炭素繊維が短く切断されないよう特別に設計したこの成形機で試作したCFRP板は、自動車部品としてよく使われるアルミダイカストを超える強度を達成した。
今後の予定
地域企業を中心とした浜松地域CFRP事業化研究会(約50社)と連携して、研究成果を利用した具体的な製品提案につながるよう技術支援を継続して行う。また、熱可塑性CFRPのリサイクル技術を検討するなど、自動車メーカー等からの要求に応え、製品化し易い環境整備に努める。
プラスチック資源循環に向けた静岡県内発CNF複合樹脂のリサイクル性を解明(工業技術研究所)
課題
従来のガラス繊維強化樹脂(GFRP)・炭素繊維強化樹脂(CFRP)はリサイクルが困難で廃棄物対策が課題となっている。近年、植物由来の素材であるセルロースナノファイバー(CNF)を配合したCNF複合樹脂が注目されている。しかし、CNF複合樹脂のリサイクル性に関する知見が不足しており、普及を妨げる一因となっている。
成果
プロピレン樹脂(PP樹脂)にCNFを30%配合したCNF複合樹脂はPP樹脂の1.7~2.7倍の強度が確認され、衝撃強さも改善された。
3回のリサイクルでも強度低下率は概ね10%以下であり、リサイクル性が高いことが示された。また、熱耐性も維持され自動車部材への適用性が高いことが確認された。
今後の予定
「CNF活用資源循環研究会」の活動の中で、自動車分野におけるCNF複合樹脂の適用可能な部材候補の選定に役立てる。また、Go-Tech事業(経済産業省)において更に共同研究を進める。
駿河湾由来乳酸菌を用いた「静岡チーズ」「ハバネロソース」の開発(工業技術研究所)
課題
静岡県では、駿河湾の豊かな海洋資源である海産物・海水等から分離した微生物を海洋オープンデータプラットフォーム「BISHOP」に登録し、新たな発酵食品等の開発を進めている。この商品開発には、食材に応じた微生物の選定が必要になっている。
成果
駿河湾産シラスから単離した乳酸菌を利用して、きめが細かくミルク風味豊かで熟成度により味や風味が変化する特徴を持った「静岡チーズ」を開発した。
耐低温性・耐塩性が強い駿河湾海洋由来乳酸菌を利用して、浜松を主産地とするハバネロを発酵し、辛味に旨味が加わったハバネロソースを開発した。
今後の予定
乳酸菌を用いて発酵を行うことで、夏場でもすっきりと飲みやすいよう爽やかな酸味を付与した甘酒の開発等にも取り組んでおり、現在企業にて商品化を進めている。
がん細胞のDNA修復を妨げる化合物を発見! ~クラウドファンディングから抗がん剤研究へ~(環境衛生科学研究所)
課題
Rad52というタンパク質は、がん細胞の壊れたDNAを修復することができ、Rad52の働きを抑える化合物は、抗がん剤となる可能性がある。抗がん剤開発を目指すために、我々が先行研究で発見した化合物であるスラミンより、高い効果がある化合物の創製が望まれていた。
成果
Rad52というタンパク質は、がん細胞の壊れたDNAを修復することができ、Rad52の働きを抑える化合物は、抗がん剤となる可能性がある。抗がん剤開発を目指すために、我々が先行研究で発見した化合物であるスラミンより、高い効果がある化合物の創製が望まれていた。
今後の予定
得られた化合物Xの詳細について研究を行う。また、がんを患ったマウスに化合物Xを投与し、治療効果、副作用などを明らかにし、臨床試験を視野に入れた研究を進めていく。
最終的には、静岡発の抗がん剤の開発を目指す。
PDFファイルをご覧いただくには、「Adobe(R) Reader(R)」が必要です。お持ちでない方はアドビ株式会社のサイト(新しいウィンドウ)からダウンロード(無料)してください。
このページに関するお問い合わせ
経済産業部産業革新局産業イノベーション推進課
〒420-8601 静岡市葵区追手町9-6
電話番号:054-221-3643
ファクス番号:054-221-2698
sangyo-innovation@pref.shizuoka.lg.jp