令和6年度静岡県試験研究10大トピックス
10大トピックスとは
静岡県の産業振興や県民生活の質の向上を目的として様々な試験研究を行っている県の試験研究機関において、特に顕著な成果のあった研究を、「静岡県試験研究10大トピックス」として紹介します。
令和6年度静岡県試験研究10大トピックス
早生樹による新たな森林経営モデルを開発!(森林・林業研究センター)
課題
2050年の達成目標である「カーボンニュートラル」を実現するには、森林の二酸化炭素の吸収・固定や木材の炭素の長期貯蔵、バイオマス利用によるCO2排出削減等、森林・林業分野に課せられた役割は大きい。このため、昔ながらのスギ・ヒノキ林業だけでなく、より成長が早く炭素吸収に優れた「早生樹」を活用する新しい森林経営モデルの開発が必要である。
成果
県内で生育する早生樹を調査し、合板用としてテーダマツ、バイオマス燃料用にユーカリを選定した。テーダマツは12mm厚の2級構造用合板の基準を満たし、種子及び苗木の生産が容易であることが分った。合板用経営モデルを作成した結果、スギと比べて造林コストが抑えられ、30年で収益が多く得られる結果となった。
ユーカリは、酸性土壌である茶園の荒廃農地でも土壌改良不要で成長が優れ、燃料用チップの作製・バイオマス発電所の燃焼試験で、従来の燃料用チップと比較して問題はなかった。バイオマス燃料用経営モデルを作成した結果、植栽3年後の1回目の収穫では収益がなく、2回目から農地造成等の初期費用がかからず収益が得られる結果となった。
今後の予定
令和6年度までに、テーダマツは約4ha約1万本、ユーカリは約0.7ha約3千本が県内に植栽された。今後も、県庁・農林事務所・市町・森林組合等と共に、森林や農地の所有者に早生樹の魅力を伝え、各樹種の育成・管理等について農林技術研究所が技術サポートすることで普及を進める。
静電気で花粉の付着を向上させた受粉機を開発!少ない花粉で果実生産の省力化を実現 (農林技術研究所)
課題
梨やキウイフルーツなどの果実安定生産のために花粉の人工受粉が広く行われている。近年、花粉の輸入停止や価格高騰の影響により、輸入花粉から自家採取花粉への切り替えが加速しており、限りある貴重な花粉の使用量削減が急務である。加えて、人手に頼る受粉作業には多大な労力を要するため、作業効率化も重要な課題となっている。
成果
静電気を帯電させた花粉を効率的に花に吹き付ける「静電風圧式受粉機」を新たに開発。これにより、従来の慣行機種と比較して花粉の使用量を83%削減し、受粉作業時間も81%短縮することに成功した。花粉の節約と大幅な省力化を同時に実現する革新的な装置である。
今後の予定
共同開発企業から令和7年度に試験販売を開始。令和8年度に正式販売。
伊豆特産カンキツ‘ヒュウガナツ’のカットバック処理による栽培省力化 (伊豆農業研究センター)
課題
伊豆地域では、樹齢40年以上で樹高5mを超える‘ヒュウガナツ’の大木が多く、栽培管理および収穫作業に時間がかかる他、高所での危険な作業など、作業負担増加が問題となっていた。
成果
‘ヒュウガナツ’の主幹部を地上部から50~60cm程度の高さで全切除する「カットバック処理」を行い、その後発生する芽を育てて樹体を再生させる技術を開発した。
カットバック処理した樹体は、処理後2年で樹高2m程度にまで生長し、着花・結実した。その翌年から成熟した果実の収穫が可能となり、1年生苗木を定植した場合に比べて、1~2年程度結実までの期間が短くなった。処理後の樹高を2m程度に維持することにより、処理前の樹体と比較し、剪定や摘果等の管理作業負担が軽減され、果実当たりの収穫作業時間を4割削減することが可能となった。
今後の予定
カットバック処理後の管理技術を確立するとともに、さらなる省力化を図るための新たな仕立て法の開発を行う。また‘ヒュウガナツ’以外のカンキツ類のカットバック処理適性を確認する。
田子の浦港浚渫工事の脱水処理土を利用して牧草の収量がUP!(畜産技術研究所)
課題
田子の浦港浚渫工事において発生するシルト質脱水処理土は、利用機会が少なく、堆積保管や脱水等の処理に多くの費用が必要であった。当所では田子の浦港管理事務所から依頼を受け、シルト質脱水処理土を農用地、特に富士地域に多い飼料畑で利用することを目的としてR4からR6の3年間研究を実施し、有効な手法を開発することとした。
成果
脱水処理土は雑草種子の混入がほとんど無いため、畑等を維持するための客土として有利であるが、地力(栄養)が低いため、利用時には畜産堆肥の継続的な投与が必要となる。
一方、塩分が高いため、客土した初年度は耐塩性牧草であるオーチャードやトールフェスク等を作付することで収量を確保することができ、作付から2年経過すると、通常の作土と同等の状態となるため、一般的な飼料作物の作付が可能となることが解った。
以上の成果が、R6年度に静岡新聞、日本農業新聞等に掲載され、県内農業者に周知された結果、富士宮市の2農場(畜産)から客土利用の相談があったため、工事の方法や飼料作物の作付方法について農家と一緒に計画を立て、令和7年度中の利用開始を予定している。
今後の予定
飼料畑を長年使用し続けると、植生の衰退や雑草の侵入により定期的な更新作業が必要となることから、令和7年度以降も、脱水処理土の継続的な農業利用が見込まれる。このため、「脱水処理土の牧草地への客土利用の推進・拡大」、「脱水処理土の客土利用に関する技術的支援」、「牧草地への客土利用に関する周知・広報活動」、「客土利用を実施した牧草地における飼料栽培技術の支援」について、田子の浦港管理事務所、富士農林事務所と覚書を取り交わし、3者が協力して推進する。
浜名湖のアサリ減少要因の解明と増殖対策の実施(水産・海洋技術研究所)
課題
浜名湖アサリは、漁業として重要なだけでなく、潮干狩りなどの観光資源としても重要である。近年、アサリの漁獲量は急激に減少しているが、その原因及び対策は明らかとなっていなかった。
成果
水産・海洋技術研究所では、アサリ資源減少要因の解明と資源増殖及び管理手法の検討を行った。その結果、高水温と餌不足によってアサリが成熟不良となり産卵数が減少したことや、クロダイ等による食害が、アサリ資源の主な減少要因と考えられた。
このため、親貝の産卵場を造成、管理し、増殖を推進することが必要であり、食害から親貝を保護するため、湖底を網で覆う被覆網の実施を漁業者へ提案した。さらに、浜名湖分場の普及指導員が「浜名湖垂下あさり研究会」を技術支援することで、被覆網の面積を当初の計画である310m2から543m2まで拡大できた。
今後の予定
資源増加に必要な再生産割合の向上に必要な増殖手法の開発、被覆網面積の拡大を続けるとともに、湖内のどこで産卵親貝を保護するべきか、より詳細に特定することが必要なため、令和7~9年度に新成長戦略研究「浜名湖のアサリ資源増加に向けた実証実験と増殖手法の開発」を実施中。
ニジマスの疾病「ラッシュ」の診断方法と防除法の開発(水産・海洋技術研究所)
課題
養殖ニジマスは食用の鮮魚として、塩焼きなどで利用される120g前後の大きさで出荷されるが、このサイズでは1尾が丸のまま店頭に並ぶため、外観の悪い魚は出荷の際に廃棄される。特に、ラッシュと呼ばれる皮膚炎は、ニジマスの外観を大きく損なうため廃棄が増える原因となっていた。一方で、ラッシュの原因や発症条件は不明であり、防除することが困難であった。
成果
遺伝子解析によりラッシュの原因を細菌性の病原体と推定し、この病原体の検査方法を確立した。また、発症までに潜伏期間がある、低水温では発症しづらいといった発症条件を明らかにし、これらをの情報を基に防除方法を整理した。研究成果は、マニュアルとして取りまとめ、HP上での公開や研修会を通じて養殖現場へ普及した。
今後の予定
引き続き、研修会や養殖現場への巡回指導により、ラッシュの防除法を更に普及させ、被害の低減を目指す。
新たな静岡酵母の開発研究と酒造業界支援の取組(沼津工業技術支援センター)
課題
若者の清酒離れや消費者の嗜好の多様化等により、国内の清酒需要は低調な一方で、世界的な日本食ブームにより輸出量は増加傾向である。国内外における県産清酒の需要を拡大するために、県産清酒の更なるブランド力の向上が重要な課題となっていた。
成果
既存の静岡酵母を親株とし、果実様の香気成分を高生産する、新たな静岡酵母の候補株を複数取得した。これにより、既存の県産清酒とは異なる香気バランスを呈する清酒の開発が期待される。
地理的表示(GI)静岡(令和5年、国税庁指定)のスタートアップイベントで、県産清酒の歴史的な背景や特徴についてPRを行った。
今後の予定
新たな静岡酵母(候補株)の実用化に向けて、スケールアップした試験醸造を実施する。また、国内外における県産清酒のPR活動についても継続して行う。
デジタルツインとIoTで加速する!働き方改革の実現に向けて(工業技術研究所)
課題
県内企業のIoT導入に関する要望は依然大きく、工場全体の見える化に加え設備・モノ・ヒトの最適化が求められている。県内企業の生産性向上およびDX推進を目的として、安価かつ容易に現実空間を再現したバーチャル工場内で生産状況の可視化やシミュレーションが可能な中小企業版デジタルツインを構築した。
成果
市販のLiDARスキャナを用いて、現実空間の工場レイアウトをスキャンした。その後、処理ソフトを用いて、仮想の三次元空間上に工場を再現した。これらの3DCGモデルやセンシングデータを活用したデジタルツインの構築により、現場の生産状況の見える化や設備の増設に伴う搬入ルート、レイアウトの検討が可能となった。
今後の予定
IoT大学連携講座を通じた企業へのDX支援を進める。デジタルツイン導入による会社のイメージ向上(スマートファクトリー化)に伴う人材育成、獲得が期待される。
AI技術を用いた光化学オキシダント当日濃度予測手法の開発 (環境衛生科学研究所)
課題
光化学オキシダント(以下Ox)は高濃度になると目や喉に健康被害を及ぼす物質でありながら、県内全ての測定局で環境基準が達成されていない。健康被害を防止するためOxが高濃度になりやすい監視強化期間に業者委託によるOx濃度予測を行い監視業務に役立てているものの、経費負担が大きいことが課題となっている。
成果
本県と隣県の気象データを天気予報サイトで取得し、時系列データの処理に優れたAIであるリカレントニューラルネットワーク(RNN)を利用したOxのリアルタイム濃度予測プログラムを開発した。県内を東部・伊豆、中部、西部地区に分類し、各地点の代表地点についてこのプログラムを用いて検証したところ、Ox濃度を高精度に予測することができた。
今後の予定
開発プログラムに学習用データの自動作成プログラムを追加し、全自動リアルタイム予測プログラムを完成し、監視業務での活用を目指す。
クラウドファンディングを活用し、抗がん剤研究を推進(大切な人を救う「抗がん剤」を創りたい!|創薬プロジェクト2024) (環境衛生科学研究所)
課題
がん細胞には、免疫細胞の攻撃にブレーキをかけることで排除されないようにするメカニズムがある。当研究所では、この免疫のブレーキを解除することで抗がん効果を示す化合物を発見している。ただし、その効果は抗がん剤として開発するには、十分ではないため、より効果のある化合物を創り出すことを目指している。一方で、昨今の世界情勢等により物価が上がっており、研究費水準を維持することが非常に困難になってきた。
成果
クラウドファンディングで研究資金の募集をした。YoutubeやX等のSNSを活用して当研究所や業務への取り組みをPRすることで、県民に限らず、全国の多くの方から反響があり、目標金額の120%を超える支援をいただいた。
いただいた資金を元に、合成原料や試薬、実験器具等を購入し、がんに対して効果が期待できる25種類の化合物を新たに合成することに成功した。
今後の予定
化合物は、静岡県立静岡がんセンター研究所と共同で研究を行い、がん細胞や酵素、動物を使用した実験を行うことで、がんに対する効果があるかどうか調べていく。ひいては、静岡発の新薬開発につなげていく。
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