第5回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ
最優秀賞
『竹とんぼの坂道』(小説) 石川たかし
睦子の実家のある熱海市伊豆山は、急な坂道の多い所である。睦子は嫁ぎ先の義母の要請で、実家の近くに住む籠職人の丑松に、箕の製作を依頼しにやって来た。丑松は睦子が結婚した翌年に亡くなった父と同年である。世の中が豊かになるにつれてプラスチックなどの石油化学製品が広まる一方で、竹製品は次第に影をひそめていき、同業の者の中にはやむなく竹工芸作家に転身する者もいたが、丑松は地味ながらも、日用の竹籠の類いを編み続けて生きてきた。丑松の家をめざして坂道を登る睦子に、丑松にかわいがられた幼い日々や、やさしかった父の記憶がよみがえってくる。丑松は久しぶりで訪ねて来た睦子を、幼い日と少しも変わらぬ気安さで迎えた。
優秀賞
『ドリスの特別な日』(小説) 長山志信
伊豆の高原旅館で働くペルー人女性ドリスは、清掃員として働きはじめてそろそろ二年になる。少しずつではあったが日本の慣習や伊豆で目にする風景にも慣れはじめていた。フロント係の由岡に対して密かに恋を抱くドリスは、トイレ清掃中、由岡が用を足したあとのトイレの個室に入って淫らな気持ちになる。ところがそこへ旅館の専務があらわれて個室から出るに出られなくなる。ドリスは便器を見つめながら、ペルーのスラム街の娼婦小屋で、同じようにトイレの前で番をしていたころのことを思い出す。この伊豆という土地でも辛いことはあるが、あのころ過ごした時期のことを思えば平穏な日々を過ごしていることに気づく。
『海を渡る風』(小説) 宮司孝男
下田にある中学校三年生のクラス、そこに新学期の初めの日、スウェーデンから女子の転校生がきた。名前はエバカーリン。すごい美人だとアキラは思う。その少し前に母を病気で亡くしていたアキラはエバカーリンの姿に母を重ね合わせていく。山へ登ったり台風に襲われたりしながらもますます好意を募らせていく。実はエバカーリンも弟を亡くしていて、その悲しみのために心を病んでしまったエバカーリンの母は入院していた。が、次第に快復し、退院出来る見込みだという手紙がくる。エバカーリンの父のヤンソンさんと石廊崎の港から船に乗って帰るエバカーリンを見送りながら、アキラはいつかきっとこの港から船に乗ってスウェーデンに行こうと思う。
佳作
『占い坂』(小説) 条田 念
十七歳になった昌介は、伊豆韮山の代官江川家で砲術の修行をしていた。京で幕府軍が大敗した知らせに仲間は居なくなり、父が居る稲取に行こうと、江川屋敷に別れの挨拶に赴いた所、修善寺への使いと賀茂へ帰る娘を送ってくれと頼まれ駄賃と羽織を頂いた。
修善寺で使いを済ませた後、四人の浪士風の男に取り巻かれたが、お槙と言う娘の動作と羽織に付いた家紋により危難を救われた。
お槙の家は大地主の網元であった。翌日お礼にと五両の金を貰い門を出た所、旅支度のお槙に呼び止められ、二人は船で下田に行ったが父や役人は江戸へ去った後であった。その宿でお槙の言葉から、五両の代わりにお槙の家で働かせて貰う事を決心する。
『わさびの味』(小説) 伊藤義行
寿司職人の宮子は、わさびの味を知ろうとして、中伊豆の天城湯ヶ島町を訪ねた。そこで畳状のわさび田を経営する浩介と会い、わさびの味の秘密が水にあることを教えられる。帰りしな、浩介が宮子の持ち帰る山の水を運ぼうとすると、山を降りる途中で足を滑らせ、骨折を負ってしまう。責任を感じた彼女は、この地に踏み止まり、わさびの品種改良の仕事を手伝うことにした。急斜面での農作業に適合していく彼女は、やがて彼の怪我が治った後も、この地に居座る決心をする。ところが彼を男として愛おしく思った矢先、その浩介が山で事故死する。一人取り残された宮子は、浩介の弟の勇作の力を借り、品種改良の仕事を継続する。宮子は勇作と結婚し、この地に根を下ろす。
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