令和7年度静岡県試験研究10大トピックス
10大トピックスとは
静岡県の産業振興や県民生活の質の向上を目的として様々な試験研究を行っている県の試験研究機関において、特に顕著な成果のあった研究を、「静岡県試験研究10大トピックス」として紹介します。
令和7年度静岡県試験研究10大トピックス
良好な酒質を有する静岡県オリジナル品種「令和誉富士」を品種登録(農林技術研究所)
課題
- 酒造好適米「誉富士」は、その酒質の良さから県内酒造業者に幅広く使用されていたが、ほ場で穂が発芽し易く収量性が低かった。
- そこで当研究所で、「誉富士」の酒質の良さを保ちつつ、これらの栽培上の欠点を改善した新品種の育成に取り組んだ。
成果

誉富士の兄弟系統であるYM310を父に、愛知県の育成品種「夢吟香(ゆめぎんが)」を母とし、平成20年8月に当研究所において交配した。
平成27年から奨励品種決定試験を行い、優れた特性を示したことから、令和4年1月に品種登録出願し、同3月に県奨励品種に採用され、令和8年3月2日に品種登録された。
「令和誉富士」は「誉富士」よりほ場で穂が発芽しにくく収量性に優れており、単収は458kg/10aと、「誉富士」より1割以上多い。また、玄米の光沢が優れるため外観品質は「誉富士」より優れる。
「令和誉富士」は令和5年度から一般栽培を開始し、令和6年には作付面積72ha、収穫量218tとなった。

今後の予定
- 農林事務所やJAと連携して現地指導を強化し、品質収量の安定化を進めていく。
- 工業技術研究所と連携して、「令和誉富士」の酒質・収量性向上に向けた栽培試験を進めていく。
植物の病害感染リスクを見える化!アラート発出で迅速な防除へ (農林技術研究所)
課題
- トマト等で深刻な収量の減少をもたらす灰色かび病は、特に株内の多湿環境が続くと生産者が気付かない間に感染が進行し、発病してからの防除対策が後手に回ることが多かった。
- 最も多湿となりやすい植物株内の温・湿度を継続的かつ安定的に計測できるセンサがなかった。
成果

植物株内の温・湿度を安定的に計測するため、既存の温・湿度センサに防水被覆を施したカバーセンサを開発した。
本センサによって取得された温・湿度データをクラウドに蓄積し、灰色かび病の感染リスクをリアルタイムで評価・表示するとともに、リスクが危険水準を上回ると生産者のスマートフォンにアラートを発出する病害感染リスク見える化ツールをスタートアップ企業(AOIフォーラム会員)と連携して開発し、市販化に至った(「緑の病害チェッカー」)。
本ツールによって、これまで生産者が把握できなかった病害感染リスクをリアルタイムで確認でき、アラートが発出された場合には迅速な感染防止対策(農薬散布、除湿、摘葉等)を講ずることで発病被害を抑制できる。
本アラートに基づく農薬散布により、慣行防除より少ない散布回数で同等の防除効果が得られた。

今後の予定
- 本ツールの低コスト化、機能強化を図る。
大規模茶業経営を支援!市販のセンサやスマホを利用した茶の生育推定技術を開発 (茶業研究センター)
課題
- 近年、担い手への茶園集積が進められており、一経営体当たりの管理面積が増加傾向にある。経営規模の拡大に伴い、摘採時期の判断などに多くの時間を要している。
- 生産現場からは省力的に新芽の生育状況を把握する技術の開発が求められている。
成果

農林技術研究所ではこれらのニーズに応えるため、市販のセンサやスマートフォンを利用した茶の生育推定技術を開発した。
市販のハンディセンサ(GreenSeeker2(ニコントリンブル製))は作物の活性を示す植生指数NDVIを簡便に測定することができ、本センサの出力値から一番茶収量を推定する技術を開発した。
さらに、スマートフォンのカメラで撮影した茶園樹冠面画像をアップロードすることで、新芽の開葉数が推定できるプログラムを開発した。
これらの開発技術により、誰でも客観的に茶の生育を把握することができ、大規模茶業経営体の労力負担の軽減に寄与する。

今後の予定
- 大規模茶業経営体等の生産者や茶業関係者に情報を提供する。
災害からの復活を早める、農場でできる豚の受精卵保存(中小家畜研究センター)
課題
- 私たちの食卓に並ぶ高品質な豚肉は、優れた血統の「種豚」を育てる農場によって支えられている 。しかし、こうした農場が巨大地震などの自然災害や豚熱のような強い伝染病に見舞われると、長年築き上げてきた貴重な血統が一度に失われ、養豚産業に深刻なダメージを与える危険性があった 。
- このリスクを回避するため、受精卵を凍結して保存しておく技術が求められてきたが、これまでは高度な専門設備や熟練した技術が必要であり、実施できる場所は一部の研究所に限定されていた 。
成果

手術不要で母体に優しい採卵技術の開発:これまで豚の卵子を採取するには全身麻酔を伴う開腹手術が必要であったが、この研究では手術をせず、農場の現場で安全に卵子を回収できる「豚の経腟採卵技術」を開発した 。これにより、母豚への負担を大幅に減らすとともに、特別な手術室がない農場でも実施が可能となった 。
「誰でも・大量に」保存できる凍結技術の確立:豚は一度にたくさんの子豚を産むため、受精卵も大量に保存する必要がある。一度に少数の受精卵しか扱えなかった従来法を改良し、専用の容器(クライオチューブ)を用いることで、最大100個もの受精卵を一括で保存できる技術を開発し、特許を出願した 。この手法は作業が簡単でかつ解凍後も高い生存率を維持できる画期的なものである 。

今後の予定
- 開発した一連の技術をまとめたマニュアルを作成し、県内の養豚農家へ広く普及させる 。また、必要な器材を市販化することで導入しやすくし、災害や病気が発生してもすぐに生産を再開できる体制(BCP:事業継続計画)の構築を技術面から強力に支援していく 。
コーヒー副産物で乳質改善!暑熱期の体細胞数増加を抑制(畜産技術研究所)
課題
- 乳牛は高温環境に弱く、適正温度域が4~24℃と低いため、本県においても夏期の生産性の低下が起きている。
- 気温が適正温度域を超えると体温が上昇し、呼吸数が増えて活性酸素が過剰に生成されるため、乳腺細胞が傷害を受け(暑熱(または酸化)ストレス)、生乳中の体細胞数が増加する。
- 体細胞数は生乳の衛生品質の指標であり、これが増加すると生乳単価が減額される場合があるため、体細胞数の増加は酪農経営上の損失に直結する。
- 県内酪農場へのヒアリングから、食品副産物であるコーヒー抽出かすを乳酸発酵させた飼料(以下、コーヒー飼料)を乳牛に与えることで、体細胞数が減少したとの報告があった。そこで、令和5年度から7年度の3年間、本研究を実施し、コーヒー飼料の給与が暑熱期における体細胞数に及ぼす影響を調査した。
成果

コーヒー飼料(1kg/日/頭)を給与した乳牛では、暑熱期(7~10月)において対照区で認められた体細胞数の増加が抑制され、低値で推移した。
また、血中の酸化ストレス指標(MDA値)についても同様に上昇が抑制され、コーヒー飼料の給与により暑熱ストレスが軽減されたことが示唆された。
さらに、体重および乳量に悪影響は認められず、安全に給与可能であることが確認された。
本成果は、所内および一般農場において複数年にわたり同様の傾向が確認され、異なる飼養環境においても再現性のある技術であることが明らかとなった。


今後の予定
- 農協、農林事務所、家畜保健衛生所等と連携し、暑熱対策技術の一つとして酪農家への普及を図る。また、暑熱ストレスが軽減されることで、乳牛の食事量の低下や出産数の減少が防がれる可能性があるため、今後検討していく予定である。
トゲノコギリガザミの完全養殖に成功(水産・海洋技術研究所)
課題
- 浜名湖特産で「ドウマン」の愛称で親しまれているトゲノコギリガザミは、世界的にも需要が高く、高値で取引される水産物である。そのため、養殖への期待は大きいものの、効率的に交尾させる条件が明らかになっていないことなどから、養殖用種苗を安定的に入手することが困難である。この理由などから、国内ではこれまで養殖の事業化に成功した例はない。
成果

トゲノコギリガザミの交尾は、メスの脱皮直後に行われることから、本種の脱皮間隔や脱皮の兆候を明らかにした。これにより予測可能となったメスの脱皮のタイミングに合わせてオスをペアリングすることで、効率的に交尾させることが可能となった。さらに、交尾後のメスが産んだ卵から稚ガニを再生産することができ、国内で初めて完全養殖に成功した。

今後の予定
- 種苗を安定的に量産する技術の開発を行うとともに、収益性のある養殖技術を確立し、県内における養殖の事業化を目指す。
駿河湾沿岸の水温を閲覧できるウェブアプリの開発(水産・海洋技術研究所)
課題
- 水技研が観測ブイにより計測した駿河湾沿岸の水温データを漁業者等へより迅速かつ見やすく提供するために、一般財団法人マリンオープンイノベーション機構と共同でウェブアプリを開発する。
成果

最新の水温から1週間前までの水温が各水深ごとにグラフ表示されるウェブアプリを開発した。利用者は調べたい水深の水温と表示期間を選択することが可能。
閲覧できる観測ブイは、妻良、内浦、由比、地頭方の沿岸に設置しており、水深1mから最深で水面下35mまでの水温を10分間隔で計測している。
スマートフォンで下記URLを入力、もしくはQRコードを読み取ることで利用でき、令和7年度の利用実績は3,443件であった。


今後の予定
- 水技研ウェブサイトにてアクセス用QRコードを掲載し、ウェブアプリへのアクセスを促す等、漁業者等へ周知活動を行う。
金属3Dプリンタを活用した高度なものづくり(浜松工業技術支援センター)
課題
- 金属3Dプリンタは製造現場で活用できるデジタルツールとして期待される一方で、材料コスト、製造コスト、加工精度などに問題があり、海外に比べ県内中小企業での活用は進んでいなかった。
成果

金属3Dプリンタを活用しやすくするため、造形の低コスト化と高精度化に取り組んだ結果、低コストアルミ粉末を用いて、相対密度99.9%を保ちながら、造形速度を従来比45%向上させる最適条件を見出した。
また、アルミ合金(AlSi10Mg)と金型用鉄系合金(LTX420)では、造形姿勢やレーザ走査速度を最適化して変形を抑制し、造形精度の向上を達成した。
成果の普及に向けて、冷却効率の高い射出成形用金型開発などの製品開発支援、試作中心の造形支援、造形データ作成支援を実施し、セミナーやワークショップで企業の開発・試作を後押しした。
さらに技術情報公開として「DMG MORI第20回切削加工ドリームコンテスト」に「金属のバラ」を出品し、先端加工部門・金賞を受賞。県内企業による塗装・めっきなどの後処理を経て展示会でも高評価を得て、県内企業の技術力をPRした。

今後の予定
- 本県の基幹産業である輸送機器産業では、ダイカスト製造工程の効率化に加え、アルミ部品の大型化・複雑化が進展しており、冷却能力の高い次世代金型が必要とされている。
- 次世代金型は、金属3Dプリンタ等のデジタル技術を活用することで実現可能であることから、作製に必要となる要素技術の開発に取り組む。これにより、県内企業におけるデジタル化の一層の推進、競争力強化および生産性向上を目指す。
DX技術が生み出す木製家具の試作レス設計(工業技術研究所)
課題
- 静岡県の家具産業は箱物家具を中心に発展してきたものの、需要が高い脚物家具への対応が遅れたため、出荷額は平成3年以降大きく減少している。一方、岐阜県などの他産地は曲木等の高度な技術による高付加価値化に成功しており、脚物家具の出荷額向上を実現している。静岡県も独自の技術を導入し、高価格帯の脚物家具へ転換する必要があった。
成果
木製家具の強度評価をコンピュータ内で実施できる「家具強度シミュレーション」を構築した。このDX技術を活用することで、JIS等の家具試験に合格する軽量な木製脚物家具を試作レスで設計できることを示した。このような技術を導入している家具産地は他にはなく、静岡県の家具産業を象徴する独自技術を創出することができた。


今後の予定
- 本研究で構築した技術は共同研究、受託研究を通じて県内家具製造業者への普及を図る。なお、専門的な知識や設備が必要となる「家具強度シミュレーション」の実施は、当面の間、工業技術研究所が担当する。
御前崎港が生態系創出に関与!? (環境衛生科学研究所)
課題
- 何らかの対策を講じないと藻場が失われていく現在、御前崎港周辺の久々生海岸では、県指定の準絶滅危惧種の藻であるコアマモが自生・群生し、国指定の絶滅危惧種コアジサシの採餌場となっていることが確認されているが、そのメカニズムが不明であった。
成果

- 生態系の創出への御前崎港造成の影響に着目し、御前崎港の有無による久々生海岸への土砂の堆積の影響ついて数値シミュレーションにより解析した。御前崎周辺では栄養塩類が多いとされているが、解析により、御前崎港が造成されたことで、海域における流速が遅くなり、シルト(砂と粘土の中間の粒子)などが堆積し海草藻場など生態系の創出に繋がったという解析結果が得られた。
- 久々生海岸を含む御前崎港周辺で流速が遅くなりシルトが堆積する結果となったが、御前崎港が無い場合はその半分程度しか堆積せず、御前崎港造成によるシルト堆積への影響が大きいと考えられた。

今後の予定
- 地元NPO法人や大学など関係機関と情報共有を図り、久々生海岸における生態系調査や他の生物種調査の計画策定、今後の生態系の維持管理のための参考資料とする。
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