あなたの「富士山物語」(ある梅雨の日の奇跡…富士山/冨野光雄)

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ページID1019326  更新日 2023年1月13日

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ある梅雨の日の奇跡…富士山/冨野光雄

数年前のある長雨の続く夜、富士市在住の友人に電話して富士山の様子を尋ねたところ「この梅雨じゃあね、富士山の姿はもう二週間以上見ていないね。」とつれない返事が返ってきた。期待を削がれながら床に就いたが午前二時、急に目が覚め、呼ばれるように富士山に向かった。

東名、富士ICを降り、西富士道路を北上すると、薄暗い中で雨こそないものの、一面の雲に富士山の姿は見られない。北山あたりでほんの一瞬、雲が途切れ、薄い笠をかぶった富士山のシルエットと、朝焼けに染まった鏡餅のような「つるし雲」が見えた為、夢中でシャッターを切った。二~三分で富士山が雲に隠れ、近くの田貫湖に向かう。

富士山周りでは、車に寝泊まりしながらシャッターチャンスを狙うカメラマンとよく行きあう。田貫湖にも初老のカメラマンがのんびりワンボックスカーの中で富士山のあると思われる方向を眺めていた。「富士山見えました?」と質問すると、「この天気では無理だよ。のんびり出るのを待つよ。」と予想通りの返事。その老人と別れ、そのまま西富士道路を進むと朝霧は雨。迷ったものの、先ほどの珍しい雲が再び見られそうな気がして、精進湖に車を進めた。突然、雲が途切れ、白く輝く大きく成長した「つるし雲」が目に入ったが、富士山の姿は相変わらず雲に隠れたままだった。逸る気持ちの中、西湖に向かうと、富士山の山頂が雲間から見えはじめた。次に向かった河口湖では、トビウオ型の「つるし雲」に変わり、晴天の中、富士山もくっきり見えた。朝霧の雨がうそのようだ。

そして、高い位置から狙おうと御坂峠に車を走らせた。峠に着くと「つるし雲」が崩れはじめたのを確認、大急ぎで引き返し、パインズパークで、「つるし雲」の崩れる様を撮影した。初夏の約四~五時間ほどの豪快で贅沢なショーに招待され、興奮と感動の連続に富士山の不思議な自然に心から感謝した。

帰途、朝霧はやはり雨の中だったし、田貫湖の初老のカメラマンは、同じように車の中で寝ていた。「この時間の中でいったい何が起こったのか?」夢の中の出来事のような素晴らしい体験であった。

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