第7回伊豆文学賞 入賞作品のあらすじ

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ページID1044421  更新日 2023年1月11日

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最優秀賞

『ボタン』(小説) 倉本園子

30年前の伊豆を舞台に、突然の初潮や母、同級生との確執に揺れる少女の心を細やかに描いた作品。(初潮への戸惑い、友人や母との確執を秘密の「ボタン」は解決してくれるのか。少女の視点でみずみずしく描く作品)

昭和51年、4年生のふみ子は突然初潮を迎え、動揺する。
翌日、熱川バナナワニ園に遠足に行く。男性担任に素直になれない(自覚症状はないが、ふみ子は担任に恋をしている)。感情的過ぎる母親との間に確執のあるふみ子は、攻撃性を秘めたワニを怖れ、おだやかなマナティーに惹かれる。ふみ子自身も感情的で傷つきやすく、意地悪な同級生・吉本を怒らせてしまう。親友のレコたんは誠実だが、捨て身の親密さはないと知る。それでも、涙や怒りを時間稼ぎで抑える秘密のボタンを教えてくれる。頑張っている、と思う。ボタンは有効そうだ。人生は大変だけれど、何とか乗り切りたいと思う。

優秀賞

『四十年目の夏に』(小説) 志賀幸一

伊豆の山中で手作り家具を作っている私の家に、予備校の勉強がいやになって東京から逃げてきた少年が同居した。四十年前に、私も職人の父と喧嘩して家出した経験がある。少年は明らかに精神を病んでいたがなぜか絵がうまい。私たち夫婦は、毎日絵ばかり描いている少年が自然の中で元気を取り戻したことを喜んだが、やがて東京へ戻った少年の手紙には、死ぬために山中を彷徨したと書いてあった。私も紆余曲折を経てようやく職人気質の父を理解した。和たんすの注文を得ていよいよ名人の父に挑戦する。桐材のにおいを嗅いだとき仕事場の父の幻影を見た。「負けるなよ」とつぶやいたのは、東京の少年に言ったのか自分を励ましたのかわからなかった。

『白い帆は光と陰をはらみて』(小説) 弓場剛

オロシャ国の使節プチャーチンは開国を促すために伊豆の下田に大船「ディアナ号」で訪れていたが、安政の大地震と嵐に会い大船は沈没する。クリミア戦争の最中であるため、色々な条件を満たしている戸田湾を見つけだし、幕府と戸田村の船大工の助けを借りて、敵の軍艦に遭遇しても振り切れる船足の速い帆船を建造する。船大工を差配する大問屋展徳は様式帆船の造り方をまなんだが、エゲレスが造っている最新のスクリュー式汽船の造り方を学ぶために通詞五助ヴィチの勧めもありボストンに行く決意をかためる。これを知った貧しい船大工の緒明の嘉吉は嫉妬心と憎悪に突き動かされて世話になった展徳を代官所に訴えるが、手代から確かな証しがないのにこのようなことはするなと叱責される。下田で攘夷浪士に展徳は殺され、嘉吉は回向のためにスクリュー汽船を造る事を決意する。

佳作

『彫り目』(小説) 遊部香

大学時代につきあっていた弘明が黄金崎に彫刻のギャラリーを開いたと聞き、恭子は訪ねる。彼に一方的に別れを告げた恭子は、今更、合わせる顔はないと感じているが、黄金崎は、二人で旅行した唯一の地であったこともあり、なぜその地を選んだのか弘明に聞きたいと思っていた。
久しぶりに会った弘明は、人生は彫刻と似たようなもので、削られ、奪われていくものだと言う。弘明は卒業後、結婚したが事故に遭い、妻を喪い、自らも足を不自由にした。その喪失の経験が彼を強くしていた。弘明は残ったものだけを見つめ、前に進んでいる。彼はもう自分のことなど見ていないのだと痛感した恭子は、黄金崎を後にする。

『鬼子母神』(小説) 瀧千賀子

美和という一人の平凡な女性が、戦争という過酷な時期と若い自分の人生が重なった時、信一に出会いそこで自分がしたことの悔いは深いものでした。温情ある寺の住職によって、鬼子母神に出会い、いやされ、生きる力を貰います。
信一は、不幸な死に方をするがやはり鬼子母神に抱かれたと信じたい。
伊豆は漁業、農業と山林の国。その中でいたる所に湯の出る温泉場の人情が、信一のけなげな旅を支えてくれました。

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