Eジャーナルしずおか第263号(抜粋)令和5年9月発行
【シリーズ】小中学校における働き方改革 最前線
本県では、「学校における業務改革プラン」を2022年3月に改訂し、「教育の質の向上」と「教職員の心身の健康の保持増進」を目的とした学校における働き方改革を推進しています。
令和5年度は、全小中学校の校務分掌に「業務改善『夢』コーディネーター」が位置付けられ、各校の課題に即したさまざまな取り組みがコーディネーターを中心に進められています。また、県教育委員会事務局では、効果的に取り組むことができる「ペーパーレス化」に注目し、重点取り組みとして取り上げていきたいと考えています。
そこで、本号から「ペーパーレス化」などの取り組みをシリーズで紹介していきます。第1回は、市町教育委員会が先頭に立って学校を支援する取り組みとして、クラウドツールを活用し、ペーパーレス化や事務業務の削減に挑戦した三島市教育委員会の事例を紹介します。
三島市教育委員会 <kintone>を活用した学校の業務改善
はじめに
三島市教育委員会(以下、市教委)では、多くの自治体や企業で導入されているサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)の「kintone(キントーン)」を導入し、一定の成果を上げています。令和5年度から、年度当初に保護者や教員にとって負担となっている「家庭環境調査票」や「各種問診票」などの書類の提出・管理をICT化しました。その結果、1万枚のペーパーレス化、推計530時間の事務作業時間の削減が達成されました。
きっかけ
令和3年度経済産業省「未来の教室」実証事業の一環として、三島市の中学校が学校における働き方改革のモデル校に選ばれ、サイボウズによる教員のチーム化により実現する働き方改革の実証事業が行われました。サイボウズ担当者がGoPro を使って教頭先生の業務を記録し確認したところ、驚くべき紙の使用量が明らかになりました。これをきっかけに、市教委に対しペーパーレス化が提言され、kintone を実証事業の一環として導入する決断をしました。
修繕依頼業務の改善からスモールスタート
まず取り組んだのは、学校施設の修繕依頼業務の改善でした。これまでは、学校から市教委へメールでエクセルシートを送付し、校内では決裁用として印刷し保存していました。しかし、この仕組みは教員や市教委にとって負担が大きかったのです。そこで導入されたのが、kintoneによる修繕依頼アプリです。このアプリにより、作業時間の削減だけではなく、修繕箇所の見落とし防止や修繕の進捗確認が容易になるなど効果が上がりました。
修繕依頼業務の改善
保護者も学校も楽に
さらに、家庭環境調査票や各種問診票などの提出・管理に関する業務の改善にも取り組みました。これまでは保護者に複数の帳票を配布し、後日提出してもらっていました。回収後、教員がシステムに手入力して管理していたため、年度当初の業務として保護者も教員も非常に負荷がかかっていました。そこで、外部連携サービスを活用し、保護者には家庭環境調査票などをオンライン入力していただき、入力された情報を教員がkintoneで確認できるようにしました。このシステムの導入により、約1万枚の紙の使用が削減され、教員の作業時間も推計で530時間削減されました。
現場の声
この取り組みに対して、現場では「情報の検索が容易になり、入学児童の情報や配慮事項を確認しやすくなった」「記入漏れが減少した」「ファイリングの手間が省けた」「破損や紛失リスクがなくなった」など、事務作業の削減だけでなく、管理のしやすさなどを実感したとの声が上がっています。一方で、「大規模災害による停電や通信障害などの緊急対応時に、すぐに情報を確認できない」などの意見もいただいています。
現状に満足しない
ただし、改善の余地はまだあります。例えば、学齢児童届出書や転出転入による学齢名簿の異動処理に対応する、kintoneアプリのアップデートを進めています。また、備品管理や不用品バンクアプリなども、今後運用していく予定です。
おわりに
市教委では、「児童生徒の幸せ=働く教員の幸せ」というモットーを掲げており、教員の願いである「長時間労働から解放されたい」「児童生徒と向き合う時間を増やしたい」「家族やプライベート、自己研鑽に割く時間を増やしたい」という希望を実現するために、働き方改革をさらに進めてまいります。
実践NOTE523
今だからこそ、求められるもの ~特別支援学校での経験を生かして~
静岡県立湖西高等学校
教諭 横山 貴春
特別支援学校で学んだ、私の原点
講師、初任校として合わせて4年間、特別支援学校で勤務した中で、私が学び、今でも原点としているのは“生徒たちをよく見る”ことです。生徒一人ひとりがどのような背景を持ち、どんな強みがあり、何に課題を感じているか、それらをつかみ、個別の支援に落とし込んでいくことを心掛けていました。しかし、その生徒がもっている力を最大限に発揮できるような環境、教材、言葉掛け、教師同士の連携は、上手くいくことばかりではありませんでした。悩みながらも実践と省察を繰り返し、何度も同僚とケース会議をした経験は、今でも忘れられません。現在の勤務校でも、生徒たちをよく見て、その子たちの力を最大限に発揮させるためにはどうすれば良いかを考えて実践する、その原点は変わっていません。
個に応じた支援のための「ケース会議」
本校では、分掌とは別に「教育相談室」があり、2週間に1回のペースで相談室会議を行っています。その会議では、各学年の教員により、生徒の学校・家庭での様子、欠席や遅刻の要因、困りごとや課題などが話し合われます。必要に応じて、学校全体で共有します。個別の支援が必要であると考えられる生徒については、昨年度からケース会議を行う取り組みを始めました。関係する教員への助言、効果的な手立ての提示、保護者への協力依頼、外部との連携などにより、個に応じた支援を行っています。
個別配慮の視点を授業へ
保健の授業では、個に応じた配慮を心掛けています。ユニバーサルデザインフォントや色覚多様性の生徒にも見えやすい色を使用しています。認識しやすい文字や配色により、生徒の理解度が高まります。
視覚優位や聴覚優位といった特性を持つ生徒に対して、どちらにも分かりやすいように、スライドを提示するだけではなく「ゆっくり」「はっきり」「端的に」説明することも意識しています。
誰もが「学びひたれる授業」を目指して
背景、強み、課題…すべてが一人ひとり異なっています。多様な生徒が、優でも劣でもなく、自分の力を最大限に出し切り、ひたすらに学びひたれる授業。教員もひたすらに教えひたれる授業。私が出会った本の一部分ですが、強く胸を打たれました。そのためには、生徒たちをよく見て、生徒たちが学びひたれる場を提供することが求められます。私は特別支援学校での経験を生かして、そのような場を提供できる教員になりたいです。
●『大村はま60 のことば 優劣のかなたに』刈谷夏子. 筑摩書房,2007,p.223-226.
実践NOTE523は以上です。
実践NOTE524
全盲や弱視の赤ちゃんの家族に寄り添う指導
静岡県立沼津視覚特別支援学校
教諭 柏木 雅章
「進んでも進んでも光の見えない、真っ暗なトンネルに1 人で置いて行かれた感じがしていた。」見えにくい乳児を育てた、あるお母さんが来校前に感じていたという言葉です。全く見えないのか?少しずつ見えるようになるのか?光も感じられないのか?どうやって赤ちゃんと触れ合えば良いのか?ご家族は分からないまま不安の中で過ごします。
教育相談・超早期指導教室とは
視覚特別支援学校の教育相談・超早期指導教室では、乳児期の指導を教員と乳幼児期発達支援指導員が協力して行います。最初の役割は家族の気持ちに寄り添うことです。初めての電話では、電話をしてくれたことを感謝し楽しみに待っていることを伝えます。来校時には、赤ちゃんをかけがえのない唯一の
存在として可愛いと認め、家族にその気持ちを伝えます。継続して通う中で子どもの成長を引き出すことで、見えなくても、見えにくくても、成長する力があることを家族が実感できるようにします。見えない、見えにくい乳幼児の成長を促すには、さまざまな方法と適時性があります。(1)興味関心を引き出し何でもやってみようという気持ちと、見る力を伸ばす指導、(2)触覚などの視覚以外の感覚も活用する指導、(3)見えにくさを補う言葉と概念形成の指導、(4)安心して遊ぶための環境設定が大切です。それらを専門的な見地から保護者に伝え、赤ちゃんと実際に遊ぶ中でそのコツを見てもらいます。赤ちゃんにとっては遊びの中で、保護者に向けては遊びを見せる中で関わり方のコツを知ってもらいます。
乳幼児期から将来へ
乳幼児期の成長は生涯にわたる基盤になります。乳幼児期に一度でも来校してつながりがあると、その後、地域の園や学校に在籍しても、定期的な来校や困った時の連絡がしやすくなるようです。乳幼児期からはじまり成人期まで、子どもや家族と共に学び成長できる。そんな指導を、県内に視覚特別支援学校が3校あるメリットを活かし実践していきます。
実践NOTE524は以上です。
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