第14回『リニア中央新幹線を考える(その3)』
「田代ダム取水抑制案」について、様々な議論を呼んでいます。
ご理解して頂くために、少し触れてみます。
10年前、国の「環境影響評価準備書」で、大井川の流量が減少すると示され、県はJR東海に対して「トンネル湧水の全量を戻すこと」を求めました。トンネル工事による水資源の影響について、県とJR東海との間で議論が続きました。
5年前、「不確実性」がある中「トンネル湧水の全量を戻す」という基本認識が両者との間で一致しました。この後、この「全量戻し」がトンネル完成後だけでなく、工事期間中も含まれるかどうかで議論になりました。
2021年12月(約2年前)、国土交通省が設置した有識者会議において「工事期間中も含めてトンネル湧水を戻さない場合は、全量戻しにならない。」と示されました。
簡単に言いますと、「トンネルを掘るにあたっては、工事中もトンネル完成後も、出た水を全量大井川に戻すこと」が県とJR東海との基本認識であり、前提ということです。
具体的には、静岡県内での工事中に出てきた水は、トンネルが貫通するまでは山梨側に流れ出てしまいます。貫通すればその流水をポンプアップして、トンネル内から大井川につながる導水路トンネルを通じ、大井川に直接戻すということです。
ここからが、「田代ダム取水抑制案」の話です。
静岡県と山梨県の県境付近で一つの課題が残りました。
トンネルは、静岡県側から山梨県側に下り勾配で作られます。そして、静岡県側のトンネル掘削の穴と山梨県側から掘り進めた穴とをつなぎ合わせる工程が出てきます。
その地点が静岡県内にあります。県境をまたいだ後に出た水全量を戻す手立てが未解決でした。
そこで、JR東海が出した策は、山梨側に流れる水そのものを戻す代わりに、出た量と同量の水を別途大井川に戻すという案でした。
こうして「全量戻し」の前提を外します。そして、工事で流れ出た水の量を計測し、電力で使うために取水していた大井川の水を、取らずにそのまま川に流れていく量で戻す案が提案されました。これが「田代ダム取水抑制案」です。
県としては、前提から外れた案なので慎重にならざるを得ません。それでも、「大井川流域の利水関係者が同意し、その手法が合理的で実現可能ならば」という条件で認めました。
繰り返し申し上げますが、これは、県とJR東海とで長く議論してきた前提と異なることを特例的な扱いで行う案です。
その順序も静岡工区のトンネル掘削工事の最終段階において、トンネルが貫通するまでの間の10か月に限って特例として取り扱う約束であると認識しています。
そして取水を抑制する主体は「東京電力リニューアブルパワー株式会社」(東電RP)です。トンネル工事を行っているJR東海ではありません。ですから、JR東海と東電RPとの間で了解がされなければなりません。
それが整ったことでこの案が進み、現在に至っているのです。
その上で、ある問題点を挙げてみます。山梨工区は、静岡県境を越えて静岡県内に入り込んでいます。(上図参照:静岡工区と山梨工区の境が赤破線で描かれています)
田代ダム案が必要なのは山梨工区の工事ということです。
そこで危惧するのは、今、話題になっている田代ダムに係る山梨県側からの高速長尺先進ボーリングによる掘削です。
これは、これまで説明してきた田代ダム取水抑制案とは関係ありません。
田代ダムの取水に関わる話ですが、トンネル掘削で出る水を戻すための取水を抑制する案ではなく、取水が止まっている間は本来取水で少なくなるはずの流量が大井川に流れているので、「その間、水が県外に流出しても問題ないのでは」ということになっているようです。
そもそも、東電RPが取水をしないで大井川に流れる水は「誰のものなのか」という微妙な問題もあります。田代ダム取水抑制案は例外として取り扱うものと考えておきませんと、問題がより複雑化する危険もあります。
大井川の「水」は丁寧な議論が必要な領域です。
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