<地域商品開発・商業活性化>商業が人と地域を繋ぎ合わせる 遠州夢倶楽部
- 所在地
- 〒431-1305 浜松市北区細江町気賀676 株式会社鈴代商店(事務局)
- 代表者
- 会長 小林秀俊 (旭屋酒店)
- 電話
- 053-523-1025
- ファクス
- 053-523-0213
- 設立
- 平成7年
- 運営人数
- 加盟数35店舗・団体
- 事業内容
- 地産地消オリジナル商品の企画・開発、販売・卸、各種イベント参加等
おもしろい商品を売りたい
昭和から平成にかけて、酒販免許の規制緩和や、大型スーパーマーケット・コンビニエンスストアの参入は、地域の酒小売店・酒卸店に大きな逆風となった。各地で生き残りをかけた取り組みが行われる中、地元密着の良さ、御用聞きの伝統を生かした小回りがきく情報力を生かしていこうと、旧細江町を中心に細江夢倶楽部が結成された。これが後に遠州夢倶楽部へと成長する。
たとえば大手では決して扱わないような、個性的で訴求力のある商品を扱ったらどうかと、醸造元が自家消費するような少数限定の酒や、口コミで小耳に挟んだ美味しい酒を仕入れてみたりした。事業をスタートした後も、酒屋だからといって酒ばかりではつまらない、とにかく地元の美味しいものを何でも扱ってみようと新たな事業展開を図っている。もともと酒と美食とは切っても切れない縁である。地元で知る人ぞ知るカレー屋更紗屋のカレーをレトルトに再現してシリーズで商品化したり、地元の野菜を地元の企業がソースに仕立てる遠州ベジタフルソースなど、月1回の会合で飛び出すアイディアの中から自分たちがおもしろいと感じるものを次々とオリジナル商品にしていった。メーカーが作った商品をただ並べるだけでは小売店としての付加価値がない。自分たちが美味しい、おもしろいと感じるものを販売の現場でお客さんに提案し、「これ、美味しいね」「これはどうやって作ったの」と会話を交わしながら、売る側も買う側も楽しさを共有したい。そんな願いがあった。
静岡県は農林水産物に恵まれた産地である。しかも県西部地域や隣接する愛知県東部地域には醸造業・食品製造業があり、小ロットで受注生産してくれる工場にも恵まれていた。ひとつの商品ができあがるまでに、多くの意見を出し合い、何度も試作品を作った。販売・卸業者が商品を開発すれば、販路に困ることはない。小売店は需要と供給の現場だからである。
こうして同団体は、大手量販店や大手メーカーが全国規模で展開するブランドには真似のできない商品を生み出し、地域に浸透していった。
「みかポテ」が教えてくれたこと
同団体の名前を一躍有名にしたのは、「みかポテ」こと三方原男爵100%ポテトチップスの大ヒットである。これは、会員店と配達先の農家での何気ない会話から生まれた。相場の下落を嘆いていた農家の話をさっそく会合の席ですると、「地元名産の男爵芋を何かに商品化できないか?」「芋ならばポテトチップスってどうだ?」という意見が出た。「ビールにも合うし、面白そうだ」「では、メーカーを探してみよう」という具合に話が進んだ。メーカーとの交渉も整い、原料芋の確保に乗り出した際、採算面から規格外農産物の利用に着目した。しかし、当初は農家が既存の取引以外への農産物の出荷に躊躇し、なかなか思うようには集荷ができなかったという。「みかポテ」がメーカーの製造方法のこだわりと掘り立ての芋を使うことなどで、男爵芋の良さが表れた商品となり、消費者に少しずつ認知され始めるのと同じように、農家の方々の「みかポテ」への理解も得ることができ、仕入先は広がっていった。結果として、それまで商品とならなかった規格外農産物の有効利用に広がったのである
さらに、「みかポテ」の成功によって、同団体の活動が広く理解されるようになった。処分に困るような規格外野菜でも美味しくて個性的な商品に仕上げ、農家も販売店も消費者も喜ばせる団体だと認知されて、次なる商品の開発協力や卸先開拓に弾みがついたり、他分野との連携も芽生えている。現在「みかポテ」は耕作放棄地を借り、福祉施設の人々の手を借りて育てた原料を製品化する取り組みに着手したところである。農作業の他、ラベル印刷や袋詰めなどの軽作業を福祉施設に委託したり、イベント販売等でも協働することで、農・商・福祉が繋がっていく。地域で独自の商品を生み出すということは、工程の数だけ地域に仕事を作り出し、商品のヒットによって関わる人すべてを潤す可能性を秘めているのである。
夢見ることの楽しさを形に
現在、同団体は35事業者が加盟する任意団体であり、会としての法人化は行っていない。それは会員がそれぞれ一事業主であり、自分の地域で特性を生かした商売を基本にしているからだという。同団体の名前で開発した商品も、会員全員の店舗で同じように売るのではなく、店舗タイプや立地、客層に合わせて取り扱うかどうか会員自身が判断する。今の同団体の形は自由度が高く、会員それぞれが自分の拠点・地域を基盤として持ったうえで夢を語り、その夢を形にする場なのである。
同団体の輪は、「みかポテ」のように原料の製品化から販売までに多くの人と関わっている一方で、忍冬酒(にんどうしゅ)※、遠州ベジタフルソースのように、発売された後、それを味わった人たちが「こんな料理に使ってみたら」「こんな味わい方もあるよ」と受け手情報を発信してくれることによってさらに広がっている。同団体が開発した商品が消費者の手に渡った後も成長し続けているのは、業界団体でありながら、自分たちの利益だけを目指すのではなく、会員それぞれが地域の一員として地域の人々と繋がり続けているからに違いない。
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