<福祉・ケア>心に寄り添うビジネスモデル 株式会社PEER(ピア)
- 所在地
- 〒434-0046 浜松市浜北区染地台1-43-41
- 代表者
- 代表取締役 佐藤真琴
- 電話
- 053-585-0054
- ファクス
- 053-585-0054
- 設立
- 平成21年、(創業)平成15年
- 運営人数
- 6名
- 事業内容
- 高品質低価格な人毛ウィッグ等の製造販売、脱毛期をともに過ごす個室美容室(完全予約制相談~ウィッグの製作、フォロー)、他地域の美容室へのモデル移管、商材卸
冷静と情熱の起業者
静岡県のコミュニティビジネス、ソーシャルビジネスを語る時必ず名前が挙がる企業の一つが、医療用かつらと脱毛期ケアの美容室を運営する株式会社PEER(ピア)である。同社と佐藤真琴代表取締役は、経済産業省ソーシャルビジネス先行事例55選に選出、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009、静岡県知事褒賞など数々の顕彰を受けている。しかし、実際にその店を訪れてみると、記念盾などはむしろ利用者から目立たない場所に置かれ、同社を輝かせているのはあくまでも顧客や市場の評価だということを象徴しているようでもあった。
佐藤代表取締役が起業したのは、看護学校在学中だった。看護実習で受け持った患者が抗がん剤によって脱毛し、かつらを使いたいが費用の負担が重くて諦めると聞いたことがきっかけだった。その時目の前にある問題は品質が良く手の届く値段のかつらがないことだったが、一看護学生を起業にまで向かわせた本当の課題は、医療現場での治療以外のケアのなさだった。当時、医療機関は治療に専念すべきもので、患者の不安や困りごとを汲むという発想も余裕もなかった。それを医療者も患者自身も仕方ないと諦めている現状こそが、立ち向かうべき相手だと感じたからである。
佐藤代表取締役は「両親が共働きだったので、子どもの頃から自分で動くのは当たり前でした」とこともなげに言うが、同社の起業は問題意識だけでやみくもに動いた結果ではない。まず、当面の問題である利用者が望む高品質低価格のかつらの製造販売を決め、それはどんな価格のどんな品質の商品であるべきか、自分にできる小さな規模で、コストの少ない販売方法は何かを考えた。がんにかかるのは自分と同じごく普通の人々だ。自分が買えないような値段のものはお客さんにも買えない。想定する商圏内でのがんの罹患率・患者数、抗がん剤によってかつらを必要とする期間の負担感から割り出す適正価格…。それらを勘案するビジネス感覚と、単身中国に渡って面識がない中国人工場主との商談に挑む情熱とが、20代だった佐藤代表取締役の中に既に備わっていたことには驚かされる。しかし、同社の成功は、情熱だけでなく、現実に対する立ち位置の確かさから生まれてきたのである。
収益事業だからできること
小さな個人事業として始まった同社は、こつこつと実績を重ねながら、次第に本来の目的をはっきりと示していった。抗がん剤などで脱毛期を過ごす人たちのためのかつらや綿製の帽子、頭部ネットなどを販売するが、商品を作ることや、販売すること自体が事業の目的ではない。治療期・療養期に受ける不安、心身のつらさなどを受け止め、その解決や軽減に繋がる方法を提供することが創業の目的であり、商品の製造販売から上がる収益は、この事業の継続や拡大の原資となるものだった。
かつらの販売が軌道に乗ると、同社は完全予約制の個室型美容室を始めた。脱毛期にかつらをつけたまま一般の美容室に行くことには心理的に相当な抵抗がある。しかし、この美容室なら、専門の美容師が髪に関することだけでなく手足のしびれや精神面での不安など、脱毛期を通じての困りごとに耳を傾け、利用者の心を和らげる手助けができる。美容室は住宅街の中で、ひっそりと小さな看板だけを掛け、まるで友人宅を訪ねるように入っていける。歩行が困難な利用者のために美容台そのものが可動式になっており、窓の位置もさりげなく人目を遮る高さに設定している。佐藤代表取締役が創業当時から同社を事業として始めたのは、思いを形にするために必要な手段が何であるかを知っていたからである。
2つのピア
「ピア」は今、2つの形を持っている。収益事業を行うための株式会社PEER(ピア)と、医療従事者向け講演や、ケアを行う美容師への研修・患者支援の会など、非収益事業を行う一般社団法人ピアである。両社の法人格は、明確な方針のもとに素早い経営判断ができ、スタッフそれぞれがプロ意識を持った仕事をするための選択であったという。困りごとを解決する事業だからこそ継続するべきであり、継続する責任がある。そんな自負に基づいて収益事業を行う一方で、それでも営利目的ではない法人を並立させていることは、佐藤代表取締役の創業当時の強い思いが今も生きている証拠なのだろう。
同社は、事業の目的や思いが揺らぐことなく、次の展開へと向かう。会社自体の規模は拡大しないものの、利用者の声からニーズを酌み上げた新たな商品を投入したり、志を共有する美容室との提携によって同社以外の場所でも問題解決ツールを提供できる体制を整えていく。
同社が対象とする顧客は、様々な悩みを抱えた人々であり、その困難は、誰にでもおとずれるかもしれないという意味では社会に普遍のものである。佐藤代表取締役率いる2つのピアは、声高に社会に主張することではなく、その事業のあり方によって、個々の利用者の心や生活のみならず、医療現場の体制、医療に対する人々の意識をも変える力を持っているのである。
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