あなたの「富士山物語」(父と富士山と私/田村香奈子)

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ページID1019365  更新日 2023年1月13日

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父と富士山と私/田村香奈子

母が亡くなって今年で五年になりました。父とは、それ以来会っていません。父は母が亡くなってから、娘の私を遠ざける様に自分の世界へ閉じこもってしまい、私も母を亡くした悲しみから抜け出せず、それぞれの時間が何年も過ぎていきました。

私が主人と子供達のそばで少しずつ現実を受け入れる事が出来るようになった頃、我に返ったかのように父の存在が思い出され、私は父と連絡を取る事を試みました。が、私のように家族に支えられながら乗り越えたこの数年と、父のように、たった一人で戦わなければならなかった母を失った喪失感は、比べものにならないほどの差であったと今は理解出来ます。

父は私と連絡を取る事を拒絶したのです。「静かに暮らしたい。」それが、この数年の間に父が出した答えでした。

父は富士山のふもとに住んでいます。私の住んでいる町からも富士山は見えます。春の富士山はまだまだ雪深い。日の出の朝日が山頂に当たり、雪が赤く染まる一瞬は幻想的。真夏の山肌の見えた富士山は雄大で懐の深さを感じます。澄み切った青空の下、すすきの群集の後ろでそびえ立つ秋の富士山も素敵。でもやっぱり、ピンと張りつめた冬の朝、雪化粧をした富士山を見上げるのが一番好き。富士山を見るたびに「今日も一日お父さんを見守って下さい。」私はいつもそんな風に思っています。

幼い頃、父と一緒に藤棚の下でお昼ご飯を食べながら一緒に見上げた富士山、私が嫁いだ後も両親の暮らしぶりを知っている富士山。そして今、私たち家族が見ている富士山。時はたっても、私達のそばには、いつも富士山があったし、これからもずっと変わらずにあります。

お父さん。離れていても、会えなくてもずっと想っています。

きっと今日も同じ富士山を見ているね。

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