あなたの「富士山物語」(富士山は絆/石山武)

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ページID1019373  更新日 2023年1月13日

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富士山は絆/石山武

八月の暑い夜のことであった。「お父さん。Mちやから電話だよ。」妻の呼ぶ声で、電話に出てみると。「おータケちやか。変りないか?」いつもと変らぬMの声に、ホッとする。

Mとは中学時代の同級生で、彼との付合いも半世紀を過ぎた。それ故に想い出も多い。その一つに富士登山がある。中学を卒業して四年後の昭和三十六年七月のことだった。

どんな経緯であったか記憶に無いのだが、Mと富士登山をすることになった。二人とも登山の知識は皆無で十九歳の私たちは、麦わら帽子に地下足袋で、新三合目より富士山頂を目ざす。ところが何を思ったのか、最初から駈け足で登る。しばらく行くと、下山をして来た「強力」のおじさんが、私たちを見て、「そんなことをして行くと。高山病になるぞ。」と注意をされたが、二人は無視して登った。

忠告が、現実となるに時間はかからなかった。言葉どおりに、私がこれまでに経験をしたことの無い激しい頭痛に見舞れてしまった。此のため山小舎に泊まる予定は無かったのだが、山小舎へと泊ることになる。頭痛もそうだが、山小舎でも大変な想いをした。それは就寝する姿勢のことだ。なんと隣に寝た人の足が、自分の頭の横にある。私の場合は、Mの足が来ていた。こんな身動きもとれぬ状態のために、起きたら二度と元に戻れない。苛酷なものだった。

翌朝になっても、私の頭痛は治まらないままで頂上へと向った。けれどもMは元気そのもので、彼の元気が唯一の救いでもあった。こんな塩梅で、御来光も良く覚えていない。「下山をすれば良くなるよ。」と、山小舎の人に言われたのだが、御殿場まで来たところ、それ迄の頭痛が、嘘のように治ったのにはブッたまげてしまった。

一泊二日の富士登山では、Mにずいぶんと迷惑をかけてしまった。しかし彼との絆も此のときに強くなったと思っている。

現在も、「Mちや」「タケちや」と呼び合える仲に、富士山と親友に感謝である。

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