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更新日:令和3年11月10日

国際化の中の人権

静岡県立大学国際関係学部教授 西田 ひろ子

「国際化」という言葉は、日本社会の中では日常的に使われる言葉になっている。しかし、「国際化」の中に潜む「人権問題」に気付く人は少ない。例えば、日本へ戻ったばかりの帰国子女の生徒が他の生徒と共に教師に怒られている時に、教師から「その反抗的な態度はなんだ」と一喝されたという。なぜこの帰国子女の生徒だけが「反抗的な態度をとっている」とみられたかというと、他の生徒はうなだれていたのに、その生徒だけが教師の目をまっすぐに見ていたからである。これは、それまで帰国子女の生徒が暮らしていた外国で「人が話しているときは目を見る」という習慣があったからである。同様のことが、日本在住の日系ブラジル人の言動に対する日本人の反応にも見られる。「ゴミの出し方を知らない」「深夜だというのに音楽をかけている」といったものから、「すぐに転職してしまう」「品質管理ということを理解していない」といったものまで様々である。このような日本人側からの苦情は、先の帰国子女の生徒に対する教師の反応と同じで、日本人の観点から日系ブラジル人を見ていることが基盤にあると言える。アメリカ在住の日本人が、周りのアメリカ人から「アパートの部屋で魚を焼くので困る」「洗濯物をベランダに干すので困る」と言われているのと同じである。日本では当たり前だったことが、国が異なれば通じない。さらに言えば、偏見の要因となってしまう危険性もある。
このような異文化間コミュニケーション上の摩擦の解消法は、まず第一に、国が異なれば、考え方や行動様式が異なるのは当たり前と考えることである。「ゴミの出し方を知らない」「深夜だというのに音楽をかけている」という日系ブラジル人の行動は、日本のルールを知らないからである。また、「すぐに転職してしまう」「品質管理ということを理解していない」といった行動は、ブラジルで獲得した習慣に従っているために、日本人からは奇異に見えるのである。この種の摩擦の解消法の第二は、実際に日本人と日系ブラジル人の間で密にコミュニケーションをとることが重要である。しかし、この「密にコミュニケーションをとる」ことが非常に難しい。この難題を解消するためには、コミュニケーションをとるための一歩を踏み出すことである。誰かがコミュニケーションをとらなければ、誤解が誤解を生み、最終的には偏見となってしまう危険性がある。
「国際化」という言葉は、「日本社会の未来はいかに国際化することにかかっている」といったように使われることが多い。このような表現の響きは非常に良い。しかし、内実は多くの問題を抱えている。特に、国が異なることによって生じる上述のような人権侵害は、誤解の下に無意識に生じることが多いため注意が必要な側面である。