人づくりちょっといい話18

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ページID1018539  更新日 2023年1月11日

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古書を古読せず、雑書を雑読せず

私は本を読む時にこの人の言葉を思い出します。天竜川の改修工事をやった金原明善(きんぱらめいぜん)という人の言葉です。

金原明善は郷土の偉人として知られていますが、明治政府に行って「これから天竜川の改修工事をするのだが、ぜひお上のお金を頂きたい、公的資金を導入してください」と訴えます。この人の偉さは「私の家の土地、家屋、資産を全部担保に出しますから、公的資金を導入してください」というあたりです。公の仕事をするために、自分個人の財産を担保にするという。今、公的資金で問題になっている大会社の社長さんは、自分の財産を出すなんて考えてもみないでしょうね。

さて、彼は読書をするにあたってこういう言葉を残しています。「古書を古読せず(古い本を古い時代の話だと思って読まない)、雑書を雑読せず(雑誌類を雑な気持ちで読まない)」。つまり、古書も雑書も全部自分の問題意識の中で読むということですね。

面白いから読むでもいいし、「人生も半ばを過ぎた。この辺で自分というものをまとめてみよう」というところからでも、「静岡で生まれて日本で育って、日本って一体どういう国だったのだろうか?」でもいいんです。歌の好きな人なら「昔の懐かしい歌は、どうして今歌われないのか?」でもいい。

それぞれの問題意識で読んでみると、古書を古読しない。古読しないと「百年も前にこんなことを言っていたんだ」と驚くことがある。雑書の片隅に、名もない人の投書でキラッと1行光る文章があって、「ああ、こういうことだったのか」とそれこそ目から鱗が落ちる思いがする。そういう発見があるんじゃないかと思うんですね。

「古書を古読せず、雑書を雑読せず」というのは、江戸時代の人たちが道楽で学問をやったように、面白いからやったんですね。自分を鍛え直すとか心を洗うとかいうシャチホコばった難しいことではありません。その面白いからというのは、自分の中で起きた問題意識を解いてくれるのが学問だったということ。それはなんていうか、出会いですかね。

というわけで、夏休みに本を1冊か2冊読みきってしまうというのはどうでしょう。今からでもいいんじゃないでしょうか。秋風が立つころ、「ああいい夏だったな」と振り返ることができると思います。

金原明善(1832~1923)=治山、治水の貢献者。長上郡安間村(現浜松市)生まれ。治河協力社を設立し天竜川の水防に努めた。のち水源涵養林の必要性を知り、龍山村にスギ、ヒノキ292万本を献植、金原治山治水天城御料林や県基本林の造成も手掛けた。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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