人づくりちょっといい話58

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ページID1018569  更新日 2023年1月11日

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人間という存在を疑うのは野暮なこと

自分の子どもを殺してしまうとか、急に刃物を持って襲い掛かるとか…。大阪の池田小学校の児童殺傷事件以来、血なまぐさい事件が次から次へと起こりました。「日本はどうなってしまったんだろう?」ということを超えて、皆さんの間に、人間という存在に対して自信を失っている人が増えているのではないでしょうか。

柳沢桂子さんという生命科学者がいらっしゃいます。体を動かすことがほとんどできないような病気になって、その中で、一所懸命に病と闘いながら勉強を続け、とうとう奇跡的に治ったという女性です。この方が、よく若い人に向かって「人間、人間なんて威張っちゃいけませんよ。」と言うんですね。

人間の脳というのは四つの層でできているそうです。一番下の層は、ウニやイワシの脳みそと同じ構造で、その上にあるのが、ヘビやワニやトカゲといった冷血動物、は虫類の脳と同じなんだそうですね。その上にあるのが、サルやウサギやネコといった温血動物の層で、一番上に人間の層、大脳の組織がのっているんだそうです。つまり、四段階の脳の性質を持った組織があって、そしてそれが、人間の自制心といいますか、心の働きによってワニが出て来たり、ウニが出て来たり、ウサギが出て来たり、ネコが出て来たり、あるいは、神様に近いような脳が出て来たりするんだそうです。ですから柳澤さんは、生命科学をやっている若い学生諸君に、「みんなねぇ、あんまり飲むとワニになるわよ」とおっしゃっているそうです。このように身近にとらえることもできますが、しかしこれは、地球社会全体の問題のようでもありますね。

外国旅行でご覧になった方もおありかと思うのですが、バチカン宮殿に行きますと、ラファエロの描いた『アテネの学堂』という絵が展示されています。その絵の中央、向かって左にプラトンが、右にアリストテレスが描かれていますが、プラトンは天に向かって手を挙げ、アリストテレスは手の平を水平に出しています。つまり、手を水平に出しているアリストテレスは、「世の中にはいろいろな存在が水平に並んでいる。多様である」ことを表し、それに対してプラトンは、それを認めながら「人間というのは、何か統一を目指している」と手を挙げている。つまり、多様化と統一化、二つの相反する力学の方向ですね。いつでも人間は「何とか一緒にしたい」という統一体を求めながら、「みんなが多様に生きている」という観念を持ちたい。これが人間の宿命なんだというわけです。

そういうことを考えますと、人間の存在を疑うようなことは野暮、そんな風に思えてくるのではないでしょうか。そうかなと、一晩考えるのもいいでしょう。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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