人づくりちょっといい話50
「雑草という草はない」~昭和天皇のメッセージ
長い間昭和天皇の侍従をされた入江相政さんという方が編まれた『宮中侍従物語』という全八冊の文庫本があります。
読み出したら寝られないくらいに面白い本で、文章もうまく、軽々と書きながら天皇皇后両陛下の人間的な内容、微笑みの一つまでお書きになっています。その中から、昭和天皇のお人柄と、「命」の大切さに触れるエピソードをご紹介しましょう。
天皇がお住まいになっている御座所の前のお庭一体のことを『広芝』といいます。その広芝にキジやコジュケイが盛んに来て、とても楽しい風景になるんだそうですが、いろいろな植栽があって広々としているものですから、草の種が飛んできて夏になると草がボーボーになるらしいのです。
ちょうど、両陛下は夏休みは那須の御用邸か下田にいらっしゃって、秋口にお帰りになる。お帰りになって草がたくさん茂っていたらお見苦しいだろうと、侍従たちは、その草を刈ることにしました。
しかし戦後のことで人手が足りなくて、間に合わなかったのですね。陛下がお帰りになった時に、入江さんが「真に恐れ入りますが、雑草が生い茂っておりまして随分手を尽くしたのですがこれだけ残ってしまいました。いずれきれいに致しますから」とお詫びをしました。
すると陛下は、かつてお見せになったことがないほどのキツイ目をきらりとされて、「何を言っているんでしょう。雑草という草はないんですよ。どの草にも名前はあるんです。そしてどの植物にも名前があって、それぞれ自分の好きな場所を選んで生を営んでいるんです。人間の一方的な考えで、これを切って掃除してはいけませんよ」とおっしゃったというんですね。
どの草にも名前があります。どの草にも命があります。命どおりに自分たちの生きる場所を選んで生を営んでいるんですね。やっぱり生き物すべてにおいて、自分で生きる場所や道筋を選ぶことが、内なる情報として入っているんでしょう。父がどうしてくれる、母がどうしてくれる、先生がどうしてくれる、会社がどうしてくれるではないんです。
私たちは気が付かないで「なるべくなら教えてやればいいんだ、マニュアルを作ってやればいいんだ」と思ってしまいます。そうではなく「お前にはお前の命があって、命どおりに生きていっていいんだよ」というメッセージを先に与えて、「こういうことはあまりやならい方がいいよ、こういうことはやってごらん」というメッセージを更に重ねていくといった姿勢が大切かなと思います。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より
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