あなたの「富士山物語」(あの朝の、気高い姿/安部惠久)

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ページID1019383  更新日 2023年1月13日

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あの朝の、気高い姿/安部惠久

朝が、まだ暗いうちから

近所の人たちに送られて

一番列車は、九州から

首都・東京めざして

陸軍の学校めざして

レールを鳴らし、白く蒸気を吐きながら

ひと晩じゅう走りつづけた

 

 

朝、昭和十九年三月二十五日

 

この目で、あなたを仰ぎ見た

車窓に、額、おしつけて

 

 

君国に、この命捧げんと

 

感激の涙で、あなたを仰ぎ見た

 

 

東海の蒼天に、そびえ立ち

 

うつくしい裾野、さわやかに太平洋へなびかせる

気高い姿――――――

 

 

いま、八十三才のわたし

 

東京湾のかなたにそそり立つ

あの朝の、気高い姿のままのあなたを

じっと見つめる

 

 

一日も、半日も、一時間も永く生きて

 

わが民族のさわやかな精気

守り伝えんと

はるかに仰ぐ

じっと仰ぐ

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