あなたの「富士山物語」(ふじは日本一の山/朝比奈文恵)

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ページID1019398  更新日 2023年1月13日

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ふじは日本一の山/朝比奈文恵

夫が友人達と越中八尾の「おわら会館」で聴いた胡弓の音色が忘れられず「習いたい。」と言いました。「館長さんに聞いて見よう。」と電話した所、「地元の伝統芸だから他県の人には教えられない。」との返事でした。

しかし、定年を迎えた夫は「やっぱり習いたい。」と言うので、あれから三年も経っているし、と再び電話すると奥様が覚えて居て下さり、「主人は脳外科で手術を受け、リハビリ中です。胡弓にさわろうかと言っているがです。練習相手として来て見たら。」と言って下さいました。八尾は遠い。幸いにも娘が奥飛騨に住んでいたので、そこからは一時間で行ける事がわかりました。

雪の季節は避けて通い、五年が過ぎた頃、「もう教える事はないがです。後は練習あるのみです。」と言われた時、恩返しは何が良いかと考えました。稽古の合間に、「日本一の富士のお山を、色んな所から見たいがです。こんな体になってしもうて、演奏の旅では、仕事ばかりで楽しむ余裕は無かったがです。」と語っていた事を思い出し、「静岡へご案内しよう。」と話はトントン進み、師匠の体調の良い十月下旬と決まりました。

車で八尾から奥飛騨を通り松本へ。甲府南から山を走り、トンネルを抜けて精進湖畔。本栖湖畔の茶店の主人から、「良い日に来なさった。昨日は冬の様な寒さでね。こんなに真白なお山は久し振りです。雲が出ぬ内に逆さ富士を見ておいで。」と言われて現地へ。真白な富士山は湖面いっぱいに姿を写し、それは見事でした。師匠は、「おうー。」と言ったきり、暫らくして、「何度も手術に耐えて、体は不自由になったが、お富士さん、ありがとう!」と言ってから奥様と共に拝んでいました。

車は広大な富士の裾野を走り西へ。三保の松原からの富士を見て、「遠くから見えるお山は優しげですなあ。女人ですな。」と笑いながらおっしゃいました。

泊りは日本平ホテルでした。「部屋から風呂からも、食事中もやっぱり富士山を見ていたがです。日本平から港の夜景の彼方の富士山は格別でした。」と翌朝迎えに行くと、「富士のお山は日本一や。」とご機嫌でした。

山を下り我家で寛いでいただき、二日目の夜は、海に突き出た断崖の上の焼津のホテルでした。「部屋から海上遮る物のない分圧倒されました。見る場所により、こうも異なる姿を見せてくれた富士山、夢が叶いました。食事も美味しく楽しい旅をありがとう。」との言葉を残して、静岡駅からひかりで名古屋へ、そして八尾へ帰って行かれました。

師匠は、病が再発し、昨年の春、亡くなられました。奥様から、「静岡で見た富士山、良かったね。」と何度も病床で言って居られたと聞き、私達も見えて当り前?の感じで居た富士山を、「あんなに喜んでいられた姿、目に浮かぶよね。」と師匠を偲びながら、語り合いました。

静岡に住んでいて、お客様に、日本一の富士山をご案内できる幸せをしみじみ思います。

このページに関するお問い合わせ

スポーツ・文化観光部文化局富士山世界遺産課
〒420-8601 静岡市葵区追手町9-6
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ファクス番号:054-221-3757
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