あなたの「富士山物語」(霊峰富士/富岡一郎)

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ページID1019400  更新日 2023年1月13日

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霊峰富士/富岡一郎

「男の子は、富士山へ一度は登るもんだよ。」と言った母の言葉を思い出した。

私は入営する前年昭和十七年の夏、友と二人で富士山に登った。当時は地下足袋に脚絆、リュックサックの装備で、富士宮口二合目から御来光を目指して、懐中電灯を頼りに登り、地平線から昇る御天道様に無事をお祈りして、お鉢めぐりをし、須走りを駆け下りた。

二回目は戦地から無事に帰れたお礼に一人で登った。三回目は山梨から転勤してきた同僚が「一緒に登ってくれんか。」と少々強要されて、小学五年生になった孫を連れて登った。私は旧国鉄に勤めていた当時、三島の宿舎に居住し、毎朝洗面所の窓から富士山の姿を見て、心の挨拶をして事務所に出勤した。

夏のある朝のこと、職務上駅のホームに行き、助役と打合せをして事務室を出た時、青年に声をかけられた。

「富士山はどちらに見えますか。」

私は「今日は曇っているので残念ながら見えませんが、この方向に見えます。」と答えた。

青年は傍らにそっている女性に

「見えないそうだ。」

と残念そうな表情をした。

二人は北海道から新婚旅行で富士山を見に来たと言った。夫婦はしばらく私が指差した方を見つめて名残惜しそうであった。

富士山は昔から日本人の心の中に生きてゆく支えとなって、無限の力を与えてくれる。

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