あなたの「富士山物語」(劔ヶ峯大沢初登攀/山田透)

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ページID1019342  更新日 2023年1月13日

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劔ヶ峯大沢初登攀/山田透

昭和二十六年十二月二十四日午前二時、私達は「お助け小屋」を出て大沢右岸を登り、ダルマ石の上から、アタック隊山田、斉藤は谷底に下り、サポート隊塩田、今泉は小屋に戻った。三年間の準備・偵察を経てのアタックであった。

谷底から見上げると荒々しい岩が頭上に聳え、登攀ルートは左の岩稜かその右横のルンゼと思われた。私達は躊躇することなくルンゼを登ることにした。

ルンゼの入口(1)(2)は青氷でアイゼンの爪がたたない。ピッケルでカッティングして漸く通過。ルンゼには二本の棚(3)(4)があり、苦斗してやっと乗越す。

はじめからアンザイレンして釣瓶式に登るのだが、股間から十番あたりが見え、緊張の連続だ。十一時、ルンゼを抜け小休止(5)。見上げると頂上稜線の下に二本の岩壁帯(6)(7)がある。あの岩壁を登れるのだろうか。測候所のドームが銀色に輝いている。

とにかく登るしかない。再び釣瓶式で登って行くと、岩壁が切れているのが目に入った。「あそこだ!」私達は懸命に前進した。

第一の岩壁を越し、第二の岩壁の上に出ると、記念のアイスハーケンを交互に打ち込んだ。

既に十六時を廻っている。急いで下山しなければならない。緊張がゆるむと急に疲労が身をつつむ。すでに十四時間歩いている。お互いに励まし励まし、大沢の一つ北の沢を下って行った。

南アルプスの雄大な展望の素晴らしかったことも、もう付け足しにすぎなかった。

十九時、真っ暗の中、やっとお助け小屋に着いた。

最高のクリスマス・イブ、山の歌がいつまでも、いつまでも続いていた。

イラスト:富士大沢(剣ヶ峰大沢)初登攀の説明図

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