あなたの「富士山物語」（目指せヒマラヤ／村岡昇）

目指せヒマラヤ／村岡昇

二十七才春、五年間働いていた会社を辞めました。辞めたけれど転職するつもりだったのではありません。やりたいことがあったのです。ヒマラヤの山を見たかったのです。外国をひとりで歩いて世界の広さを実感したかったのです。学生時代から抱いていた夢でした。

しかし、それには長い時間が必要でした。”半年は欲しい”誰にも何にも縛られない自由な時間が、少なくともその位はほしいと思っていました。当時の私は”三十才を過ぎたら、この夢は、実現することなく夢のまま終わるのだろうな”と漠然と考えていたのですが、そのタイムリミットもそう遠くない年齢になりつつありました。”中国からチベットへ入り、ヒマラヤを縦断してネパール、インドへ抜ける”思い描いていたルートを実現するのだ。

陸路チベットへ入るには五千メートル級の峠をいくつも越えなければなりません。高山病対策が必要でした。日本で高山病を経験できる所と言えば、ずばり”富士山”

そんなわけで、初めて富士山に登りました。話し相手もなく、黙々と山頂を目指しました。富士山頂に立ち、空を見上げ、旅の行く末に思いを馳せました。

”目指せ、ヒマラヤ”