あなたの「富士山物語」(百の言葉を持っても/山崎ゆめ子)

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ページID1019349  更新日 2023年1月13日

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百の言葉を持っても/山崎ゆめ子

あれから二十五年も経つのかと懐かしさで涙さえ湧いてくる。長姉五十八歳、次姉五十三歳、私四十二歳とその家族の甥や姪、その子供総勢十人と富士登山したのは。一番小さい姪の幼稚園の子を背負っての事であった。

五合目から夜にかけて、ゆっくりと時間を掛けて登る事にした。運動選手だった私は自信満々だったが、なんと一番早くへたばってしまった。途中岩で寄りかかりながらして進む。疲れよりも睡魔が襲ってくるのだった。そんな私に姉はビンタをはりながら、「眠るじゃあない!」と励ます。外人さんが次々と「頑張ってください。月が綺麗ですね。もう少しです。」と追い抜いてゆく。見ると皓々と月が岩と登山者を照らしている。月に勇気づけられて一歩一歩進む。

ようやく八合目の山小屋に着いた。センベイ布団を借りて横になって休む。頃を見計らい、ご来光に向けてまた出発する。頂上がすぐそこに見えてて遠い。頂上近くの大岩になんと白装束の山伏が高下駄を履いて法螺貝を吹いていた。一瞬、夢の世界に入り込んだ様な錯覚に陥った。

一段と峻険さを増す九合目。息絶え絶えになんとか頂上までたどり着いた。疲れはいっぺんに吹き飛んだ。思い出にみんなそれぞれ名前を書いたケルンを積み、頂上にあるポストには家族宛の手紙を投函した。

そして、今か今かと待っていたご来光。雲海を掻き分け、徐々に此の世に光輝を放つ様は、百の言葉を持っても譬えようがない。

あの時の幼稚園の子は既に三児の父となり、姉達も老い、そして私も独り身となった。

一族が深い絆で結ばれていた富士登山に思いを馳せ、静岡新聞社から頂いた短歌賞品の富士山宝永三百記念「宝永歳時記」の写真集の周辺の山々の美しさに勇気づけられている。

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