実践NOTE597 「誰もが主役になれる「学びなおし」のステージ:ふじのくに中学校の挑戦」

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ページID1085626  更新日 2026年9月30日

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「誰もが主役になれる『学びなおし』のステージ:ふじのくに中学校の挑戦」

静岡県立ふじのくに中学校磐田本校 教諭 青木 正文

はじめに:県内初の「夜間中学校」という挑戦

写真:磐田本校外観
磐田本校外観

 2023年4月、静岡県に新たな教育の光が灯りました。磐田市と三島市を拠点に開校した「静岡県立ふじのくに中学校」は、東海・北陸ブロック初の公立夜間中学校です。
 本校は、2016年に制定された「教育機会確保法」を根拠に、様々な事情で義務教育を十分に受けられなかった15歳以上の県民に対し、公教育としての学びの場を保障することを目的として設置されました。現在、本校には中学校時代に不登校を経験した若者から、外国にルーツを持つ方々まで、多様な背景を持つ生徒が在籍しています。本校が掲げるのは、単なる知識の補充ではない「学びなおし」です。それは、自分に合った方法で学び、自信を取り戻し、自らの未来を肯定的に見通すためのプロセスです。
 そして本校は開校4年目を迎え、「学びなおし」をRelearnとReliveの2つに再定義し、「第2ステージ」として、新たな段階へと踏み出しました。

Relearn:個々の歩幅に合わせた基礎からの習得

写真:日本語の授業風景(少人数、ICT活用)
日本語の授業風景(少人数、ICT活用)

 本校の教育の第一の柱は、知識・技能の側面を支える「Relearn(学びなおす)」です。ここでの学びは、単に「遅れを取り戻す」ことではなく、「もう一度、自分に合った形で学べるようにする」ことを最優先しています。具体的には、生徒のニーズに合わせて「教科学習」「基礎学習」「日本語学習」の3つのコースを用意しています。

  • 教科学習コース:日本語支援を必要とせず、中学校の各教科を学年ごとに学習します。
  • 基礎学習コース:教科学習に必要な語彙や表現の習得を目指し、週5.5時間の日本語指導を組み合わせます。
  • 日本語学習コース:日常生活に必要な「サバイバル日本語」の習得を優先し、週9.5時間の集中的な授業を行います。

 日本語指導については、今春に文部科学省より「夜間中学校における日本語指導ガイドライン」が公開されたことを受け、このガイドラインに沿って「生徒の思考のステージや日本語のステップに応じて、日本語でアウトプットすること」を教科学習の中で取り組み始めたところです。
 また、英語と数学については、コースの枠を超えて全生徒を習熟度別の4集団に編成するなど、徹底した個別最適な学びを追求しています。生徒一人ひとりが「わかる」喜びを積み重ねることが、Relearnの本質なのです。

Relive:学校という場での自己肯定感の回復

写真:P4Cの授業風景(問い・対話・思考の共同体)
P4Cの授業風景(問い・対話・思考の共同体)

 第二の柱は、情緒・意欲の側面を支える「Relive(生きなおす・青春を取り戻す)」です。不登校などで学校から離れていた生徒が、「学校という場」そのものを肯定的に経験しなおすプロセスを大切にしています。
 このReliveを象徴するのが、独自の教育活動「ユーダイモニアタイム(EDT)」です。古代ギリシャ語で「最高の幸福」を意味するこの時間は、従来の教科枠に縛られない、体験や交流の場です。年間を通じて、4月のスポーツデー、5月の職場見学、7月の夏祭り、11月の遠足、そして1月の和食処での「ものづくり体験」など、五感をフルに活用する活動が展開されます。さらに、「P4C(哲学対話)」を取り入れた英語の授業や、他県の魅力を探る探究学習のプレゼンテーションなど、主体的・対話的な学びも活発に行われています。これらの活動を通じ、地域の人・もの・ことと繋がることで、生徒は自らの人間関係を広げ、社会との接点を再構築していきます。

生徒の変化:数字と「声」が示す確かな成長

写真:GDについてのアンケート結果より
GDについてのアンケート結果より

 開校から月日が経ち、学校には少しずつ変化が現れています。かつて不登校や引きこもりを経験した生徒の出席率が著しく向上しています。生徒へのアンケートでは、90%以上が「自分に自信がついた」と回答しています。その理由を、生徒たちは具体的なエピソードで語ってくれました。「授業でプレゼンテーションを経験し、落ち着いて対応できるようになった」「数学の関数が一番苦手だったけれど、克服できた」「入学前は人とコミュニケーションを取ることが非常に苦手だったが、少しずつ能力がついてきた」といった、生きた言葉が本校の成果を物語っています。進路面でも、近隣の公立高校定時制への進学など、着実な実績が積み上がっています。2026年度には15名の生徒が受験を予定しており、「学びの継続」への意欲がさらに高まっています。

これからの役割:多文化共生社会の拠点として

 現在、本校は「義務教育未修了者のための学校」という従来の枠組みを超え、外国にルーツを持つ方々のための「公的な日本語教育機関」としての新たな役割も担いつつあります。生徒の約8割が外国ルーツである現状を鑑み、日本語指導のノウハウを地域の小中学校へ共有したり、ICTを活用した同時通訳や翻訳情報の提供を行ったりするなど、地域社会への貢献も視野に入れています。外国人住民の多い近隣自治体とも連携を深め、夜間中学校を核とした多文化共生の教育ネットワークを構築していくことが、私たちの次なる使命です。

おわりに

 ふじのくに中学校は、「変化は進化」を合言葉に、目の前の生徒のニーズに合わせて教育課程さえも柔軟に変えていく学校です。学びを諦めざるを得なかった人々が、再び学びの門を叩き、笑顔で下校していく。その当たり前で、かけがえのない日常を守り続けるために、私たちはこれからも一人ひとりの「新たな一歩」を全力で応援し続けます。

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