人づくりちょっといい話24

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ページID1018531  更新日 2023年1月11日

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カーッとしたら鍋をみがけ

お母さんは、身を削っても子どものために尽くす「すりこ木」の役割をしながら、なぜ感謝されないんでしょうね。お母さんらしくないことをしてしまうからかな。

そうです。お母さんは怒るんです。怒らない親というのは気味が悪いので適切に怒らなければなりませんが、女性は往々にして感情にまかせて怒ってしまいがち。自分の子どもに向かってカーッとなってしまうんですね。ある教育学者が助言しています。「ああ、怒りそうだ」と思った時にクルッと後ろを向いて台所に入って、鍋ややかんを磨く。するとフッと気持ちが直ってくるというんです。

それで「今日はうまくいった、感情を抑えられた」と思ったらカレンダーの隅に○印を書く。思わず怒ってしまったら×印を書く。やがて子どもがそれに気付いて「お母さん、これは何?」と聞きます。「あんたを怒ろうと思った時、感情的な自分を抑えることができたのが○。感情であんたを怒っちゃった日が×なんだよ。あの時はごめんね」と話す。手もつけられないような悪ガキが「ごめんね、母さん」と飛びついて、わんわん泣いたという話があるんですよね。いい話ですね。ほんのわずか、感情の手前で踏みとどまらないか、それだけで子どもにとって敬愛できるお母さんになるんですね。

お父さんにもあるんですよ。京都の日本海側の漁村と青森県の黒石という町とに似たような話があります。『お父さんの作文』という中に出てくるんですが、家に帰ってお風呂に入って「やれやれ今日も終わりだ」とくつろぐ一時。「おい美代子、ちょっとたばことライターを取って来てくれ」と言ったら、中学三年生の美代子さんが開き直って「お父さんは普段から『自分のことは自分でしろ』と言ってるのにどうして自分で取りに行かないの?」と答えた。世間の親でしたら「馬鹿!俺は疲れてるんだ。お前たちを育てるために、会社で嫌な上司に頭を下げ、嫌な客に文句を言われても頭を下げて耐えて家に帰ってきたんだから、たばこくらい取れよ」と頭ごなしに言ってしまうんですよね。その時にお父さんが「ああそうだったな。ごめんごめん。これからはお父さんも自分のことはちゃんとやるよ。その代わりお前もやるんだぞ」と返す。お父さんと子どもが同じレベルの視線になる。同じ水平線に二人の目が置かれるというんですね。このお話を書いていたのは教育者の森信三先生です。森先生は「親だから偉いんじゃなくて、偉い親だから偉いんですよ。子どもにとって偉い親になったらどうですか?偉い親というのは、お金をたくさん稼ぐとか地位が高いとかではなく、まっとうなことを言ってまとうな動作をしている。そういう親のことです」とおっしゃっています。これが、おそらく子どもの学校における態度にも大きな影響力を持ってくるだろうと思うんですね。

(注)草柳氏は、午前8時のメッセージ99話「父は『ろうそく』、母は『すりこ木』」で、父親は、自分の身を溶かしながら子どもに光を投げかける「ろうそく」の役割を持ち、母親は、自分の身を削っても子どものために尽くす「すりこ木」の役割を持つと述べている。

草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より

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