人づくりちょっといい話59
染井吉野に学ぶこと
桜にはどれくらい種類があるかご存じですか?東京都の高尾にある『自然科学園』の『桜保有林』に250種類の桜があるそうです。250種類というと全部見られるものではありませんが……。何種類か見た中で私が一番好きなのは、京都で見た、川端康成先生も非常にお好きだった薄墨桜です。それは白い花びらで、うてなの所に付いている部分が少し薄い墨色をしているんですね。少しわびしい感じのする花です。
さて、今は染井吉野が全盛です。桜は、実が地面に落ちて芽を出して木になるでしか育たない植物ですが、染井吉野は東京・駒込の植木屋の職人さんたちが作った人工的な桜なのです。きれいな花なのでどんどん全国に広めていった。皆さん方が美しいと言って眺めている染井吉野は、流行の言葉で言えば、クローン桜なんですね。
人間が作った物だから手を加えないとすぐに枯れてしまう。しょっちゅう手を加えていなければならない過保護桜でもあります。しかも手を入れる目的が、美しい枝ぶりでたくさん花が咲くという人間の欲望やおごりによるものですから、桜の木は手を入れれば入れるほどだんだんと弱ってゆく。自然はちゃんとしっぺ返しをするわけなのです。
「桜の花が咲いたら春が来た」という喜びも分かりますが、お花見のドンチャン騒ぎに終わらせないで「私たちは美しい桜を作り過ぎたのではないか。これが本当の自然なのか」という反省があってもよいのではないでしょうか。
例えば子どもの教育も、「素直な子どもをつくり過ぎたなぁ。待てよ、自分の子どもの時はもっと素直ではなかったなぁ。三つ四つくらいから自己主張があったし、自分のしたいことをして、それで怒られたら今度は隠れてした。それだけの自己表現があった。ところが、うちの子は『勉強しなさい』『はい』『寝なさい』『はい』と素直過ぎるのではないか」と反省してもよいのではないでしょうか。
親の欲望レベルで、ちょうど染井吉野を作るのと同じように子どももつくってしまっているのではないか、育ててしまっているのではないか。そうすると手を加えないとその子の状態が保たれないから、過保護がどんどんエスカレートしていってしまうという感じがするんですね。
親の言う通りに学校を出て会社に入った男が、35歳になって「お母さん、僕の青春を返して下さい」と言って、4,500万円の返還を要求したという話があります。これは、手を加える動機になった物を手を加えた人が考え直す、それだけで問題は解決するのではないかと思います。この男性は、「手を加えられる」ことに耐えてきたのです。いわゆる“いい子”を演じてきたのです。わが子に花を無理矢理咲かせるより、自分が咲いてみせたらどうです。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より
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