人づくりちょっといい話53
「貰う」ことより「あげる」ことが大事
この間、イタリアのラベッロというところへ言ったんですよ。南イタリーの静かな山村なんです。部屋が十六室しかないホテルに泊まっていましたが、そこでも花火大会をやるんです。よくよく考えてみたら、人を楽しませる要素がなければ、私たちの生活というものは成り立たないんですね。
その点で、すごい話だなと思ったことがあります。金沢に大乗寺という禅宗のお寺がありまして、昔、月舟禅師という大変に優れた禅の和尚さんと、祖暁という小僧さんがいらっしゃいました。月舟さんが「おいおい、お茶を入れておくれ」と言うと、「はい」と言って祖暁さんが持ってくる。そのお茶がおいしいんだそうです。とうとう「おまえがいれてくれるお茶は格別においしいけれど、何か工夫をしているのかね?」と祖暁さんに聞きました。すると祖暁さんは「はい、一味を入れております」と答えるんです。「ほぉ、その一味とは一体何を入れるのかね?」と聞くと、「『親切』という一味を入れております」と答えるんですよ。言うまでもなく、飲みやすい温度と濃さでお茶をいれるということなんでしょうね。
これは日本だけの感覚ではないんですよ。もしお読みでなかったら、ぜひ声を出して子どもさんたちに読んであげてほしいのは、何といっても『星の王子様』(サン・テグジュベリ作、内藤濯訳、岩波書店、1962年)です。この本の中で、友達になったキツネが、王子さまに「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思っているのはね、そのバラの花のために、ひまつぶししたからだよ」「人間っていうものは、このたいせつなことを忘れてるんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。まもらなきゃならないんだよ、バラの花との約束をね・・・」というんですよね。
結局、ここでサン・テグジュベリは何を伝えようとしたかといいますと、「友だちになる、仲間になるということは、お互いにこの世の中のかけがえのない人というものを自分がつくらなければいけないんだ。相手に尽くすことがかけがえのない人になるんだ」というわけですね。
自分に何かをくれる人、自分のためにいいことを言ってくれる人がかけがえのない人なのではなくて、自分が何かをあげたり、自分が何かの忠告を与えたり、「こういう本を読んだ?」と言って教えてあげたり、「この音楽聴いた?」と言ってCDを貸してあげたり、そういう人がかけがえのない友達になるんですよね。
ところが、今は逆でしょう?何でも「欲しい」なんですよね。本当は、「貰う」のではなく、「あげる」ということの方が、人生の色合いとしては深いのではないでしょうか。
草柳大蔵著「続・午前8時のメッセージ99話」(平成14年発行)より
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