人づくりちょっといい話14
母の躾 背筋を伸ばして歩け
古い時代の父の躾に続いて、今度はお母さんの躾を紹介しましょう。
お母さんの躾というのも実践的な躾なのですが、これが実にその当時の日本の農村、その中で背筋を立てて生きていくためには何が必要だったかなと感じさせるものなんです。
内容はまず「あんぐりあんぐり歩くものではない」。つまり背筋はシャンと伸ばしてきれいな姿で歩けと言うんですね。そうしないと人に馬鹿にされるぞということです。
2番目は「人並みに暮らせ。どんなにお金が貯まっても無駄をするんじゃない、ぜいたくをするんじゃないよ。それから、他の人がやっていることを見下したりしないで『その人がやっていることは正しいんだ』と思ってやりなさい」と。女の子たちは子どものころ、畑仕事をする時にひっ詰め髪にして後ろで結んだんですね。それで「髪を結ぶ時に紙を使ってはいけない。皆が藁しべで結んでいるのだから最後まで1本の藁で髪を束ねろ」と言うんですよ。
こういう教え方を私は素晴らしいと思うんですよね。「道をあんぐりあんぐり歩くものではない」とか「人並みに暮らせ」とか。
3番目がとても大切なんですが「途中で仕事を投げるな」と言うんですね。「手掛けた仕事は最後までやれ」と。これを繰り返し繰り返し教えるんですよ。いろいろな例を引くんです。例えば、すぐ近所にとっても器用で評判の大工さんがいる。その人が畑仕事をするとあっちを掘ったりこっちを掘ったり、途中で鍬を放り出してあぜ道にしゃがみこんで一服していたりする。それだけのことなのですが、普段は器用な大工さんで「便利な人だ」「ありがたい人だ」と言われるのだが、「あの男はしょうもない」と人格的には信用されないんですね。その話を言って聞かせるんです。「人間、器用なだけでは駄目なんだよ。やりだした事をやり遂げるという事が人の評価を受けるものなんだよ」というふうに教えるんですね。
これが母の教えなんです。実に単純なんですが、それを守っていないと、村の中でつまはじきにされたり、仲間に入れてもらえなかったり、あるいはけがや病気をしたりするんですね。だから人間として最低限のものをキチッと守らせる。それが躾になっているんですね。
というのは、私の記憶では、中国から伝わった漢字ではなく、日本の国字で作った字だと思うのですが、身偏に美しいと書きますね。躾の良い人は実際に気持ち良いですよね。しかし、私たちが見ているのは都会生活です。文明が発達して便利になった世の中ですよ。だけどそうではない時代の中で人間がどう生きていくか、つまり心の立てようですね。このくらい見事に心を立てていたという時代はないと思うんです。そしてその心を立てる2つの柱は、お父さんの躾とお母さんの躾だったんだなとつくづくそう思います。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(H21年発行静新新書)より
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