人づくりちょっといい話57
日の当たらない竹は密度が濃い
京都大学に木質科学研究所というのがあって、野村隆哉というちょっと変わった先生がいらっしゃいます。竹の専門知識では日本でナンバーワンの人ですね。
この野村先生が孟宗竹(もうそうちく)の研究をしていまして、一本の竹で、日が当たっている側と全く日が当たらない側のピースを取って、顕微鏡に載せ「ちょっと草柳さん、見てごらん」って言うんですよ。日が当たっている方の竹は、繊維がザクザクで一つひとつが太い。一方、日が当たらない竹は、繊維が細くてピシッと密度が濃いんですね。質量ともに日の当たらない竹の方が存在感がある。手の平にのせても重い。それで彼は「横笛を作る上で一番大切なのは、日の当たらない竹を見つけることなんですよ」と言うんですね。
笛にするような細い竹でも、笛作りの名人は手に持った感触で「こっち」と判断して、それが当たるんだそうです。日の当たらない部分だけで作った笛は、非常に高い澄んだ音が出るのに対して、日が当たった方はボコボコした音なのだと言います。
アメリカのスキナーという心理学者が百人を対象に実験をしました。最初の五十人をある部屋に入れて、「何々が食べたい」と言うとそれと同じような物が出る、「こういう映画が観たい」と言うとその映画が上映されるというふうに、万事願い通りの生活を大体三ヵ月間してもらった。で、残りの五十人は別の部屋に入れて、万事期待が裏切られるような、不都合であるような生活をしてもらったそうです。「お湯が飲みたい」と言うと「湯沸しがありませんから水で我慢してください」と言われ、「パンが食べたい」と言うと「パンがありませんから今日はお米にしてください」という生活を三ヵ月間してもらったんですね。実験の後、三ヵ月して、最初のグループの暮らしぶりを調べたら、ほとんどの人が昼も夜もうたた寝をしていた。怖いですよね。苦労した人たちはどうだったかというと、連絡し合ってグループを作り、問題を相談して解決していた。例えば「ゴミ処理をどうしようか」「川の水の流れの感覚を知らない子どもが多い。体の知恵として持つには、どこの川へ連れていったらいいか」――など、次々に問題を提出し解決していくグループになったという話があります。
人間も竹と同じと言うと少し語弊があるかもしれませんが、質量の高い、密度の高い人間になるためには、自分を否定してくれるような情報とぶつかり合うことが必要なのではないでしょうか。お互いに良い子良い子の毎日を過ごしていると、うたた寝の一生ということになるかもしれません。昔の人は「艱難(かんなん)璽(なんじ)を玉にす」と言っています。
(注)スキナー・バラス・フレデリック(1904~1990)=米国の心理学者。新行動主義の立場から体系化された心理学理論は’60~’70に広く受け入れられた。代表作は『科学と人間の行動』。
草柳大蔵著「午前8時のメッセージ99話」(平成13年発行)より
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